■日本薬学教育学会大会で報告
2019年度から始まる改訂コアカリキュラムに準拠した実務実習で新たに導入されるルーブリック評価が、薬系大学教員や現場の指導薬剤師から注目を集めている。2、3日に名古屋市で開かれた日本薬学教育学会大会のシンポジウムで、2薬系大学の教員がルーブリック評価のトライアル実施結果を報告。現場ではまだ馴染みの薄い評価方法だが、実務実習中の薬学生の学習到達状況をルーブリックで評価した薬局や病院の指導薬剤師からは、概ね高い評価を得られたことが示された。
ルーブリック評価とは、実務実習中に身につけてほしい達成目標をそれぞれ設定した上で、その達成レベルを4段階のステップで表示し、それに沿って薬学生の学習到達状況を評価するもの。多数の項目に及ぶ個々の到達目標(SBO)ごとに薬学生の到達度を細かく評価する現在の評価方法に比べ、もっと大きな枠組みで知識や技能、態度を総合的に評価できる。
安原智久氏(摂南大学薬学部准教授)は滋賀県薬剤師会と連携し、2016年度に滋賀県で薬局実務実習を受けた近畿地区の薬学生139人を対象に実施したトライアル結果を発表した。
トライアルにあたって安原氏らは服薬指導に関するルーブリックを試作。▽処方箋からの情報の読み取りと推測▽投薬と情報の伝達▽患者・家族の理解度の確認――など六つの評価観点を盛り込んだ。
このうち、「投薬と情報の伝達」では「適切なあいさつを行い、実習生であることを告げた上で、薬袋などに薬を入れて正確に患者や家族に渡す。かつ薬の名称、用法・用量、服用方法、代表的な注意点を正確に伝える」は1と設定。「患者の服用状況、残薬、薬に関する希望、薬物療法上の困難を服薬指導の会話から抽出し、それに対する個別最適化された対処方法を患者や家族に提案する」は3に設定するなど学習到達度を段階的に設定した。
このルーブリックで実習期間中の薬学生の服薬指導を評価したところ、実習4週目、8週目、11週目と実習の進行に伴って、その測定値は全項目で段階的に上昇した。また、アンケート調査を実施したところ指導薬剤師の7~8割は現在の評価方法よりもルーブリック評価の方が「客観的で薬学生の指標になり、薬学生のモチベーションを高め、実務実習の評価として適切である」と捉えていた。
安原氏は「ルーブリックの導入によって薬学生のパフォーマンスの成長の測定が可能になるとの手応えを感じている」と強調。「成長を数値で可視化することが、薬学生のみならず指導薬剤師のモチベーション向上にも寄与すると思う」と話した。
一方、鈴木小夜氏(慶應義塾大学准教授)は、慶應大学病院で16、17年度に実務実習を受けた薬学生を対象に実施した計3回のトライアル結果を発表した。
16年度の2回のトライアルでは指導薬剤師から「薬学生を見る目が変わる」など前向きな声を聞く一方、「負担が大きい」「ルーブリックの内容が漠然としている」などの否定的な意見もあった。そこで鈴木氏らはルーブリックを分かりやすい内容に変更。負担軽減に向けて評価回数なども見直した上で、評価項目を増やし17年度に3回目のトライアルを実施した。
その結果、「評価者は現在の方法に比べてルーブリック評価の方が、適切に、客観的に評価できると感じている。ルーブリックで実務実習を評価できるが、ただし、分かりやすいルーブリックの作成やスタッフへの周知徹底、意識の統一などが求められる」と報告。一方、薬学生の多くはルーブリックが目指す行動目標になるとは捉えておらず、「薬学生の意識づけが今後の課題」と指摘した。
フロアからは「ルーブリック評価はまだ現場の指導薬剤師には一般的ではない。誰もルーブリック評価を受けた経験がなく、わけが分からないという状態」との声が上がった。安原氏は「理解するには、実際に一度ルーブリック評価をしていただくのが最も早い。目の前の薬学生のふるまいを見て、ルーブリックを照らし合わせてみると、そういうことかと気づくことが多い」と述べ、トライアルの実施を呼びかけた。