内分泌環境の改善処置により卵巣組織が脱繊維化、妊よう性も回復
広島大学は9月1日、加齢による妊よう性低下が、異常な内分泌環境による卵巣組織の繊維化に起因することを突き止め、薬剤による内分泌環境の改善処置が、卵巣組織の脱繊維化を誘導し、妊よう性も回復させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期3年(日本学術振興会特別研究員)の梅原崇研究員、島田昌之教授、米Baylor College of MedicineのJoAnne S. Richards教授等の研究グループによるもの。研究成果は、「Aging Cell」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
体外受精を含む高度生殖補助医療において、40歳代では成績が低下することから、閉経前にホルモンバランスの異常だけでなく、卵巣機能そのものの低下が始まっていると考えられる。しかし、なぜ40歳を超えると急激に卵巣機能が低下するかはよくわかっていない。また、モデル動物の作製も生殖能力が低下するまでの長期間飼育する必要があることから、基礎研究の進展も不十分だった。これらのことから、内分泌環境の破綻と卵巣機能の低下との関係の解明、それに至った原因追求、および予防法の開発は進んでいなかった。
高齢女性の不妊治療への応用に期待
研究グループは、モデルマウスを用い、加齢に伴う卵巣機能の低下原因の探索を実施。その結果、排卵回数の増加に伴ってステロイドホルモン産生細胞が蓄積し、それにより脳下垂体から恒常的に性腺刺激ホルモンが多量に分泌されること、この異常な内分泌環境が卵巣組織の繊維化を引き起こすことを明らかにした。さらに、卵巣組織の繊維化が卵胞発育を抑制し、卵巣機能を低下させることを明確化したという。
また、血中の高LHと高FSHを改善する目的で、長期間のGnRH antagonist投与を行った。その結果、卵巣間質のステロイドホルモン産生が低下することで、卵巣間質が脱繊維化され、卵胞発育の再開と血中AMH値の改善だけでなく、卵巣刺激への応答も正常化された。さらに、交配試験により処置後3か月にわたり正常な妊よう性を示したという。
今回の研究成果より、40歳以上の不妊患者で多く見られる「性腺刺激ホルモンの血中濃度が高値を示し、卵巣機能が低下したローレスポンダー症例」で、卵巣組織の脱繊維化を誘導することで、妊よう性を改善させる可能性が示唆されたとし、高齢女性の不妊治療への応用が期待できる、と研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果