「バルサルタン」と「サクビトリル」を組み合わせた新規の薬剤
熊本大学は9月1日、抗心不全薬として海外で使用されている新薬「LCZ696」に、急性心筋梗塞後の心破裂と心不全を防ぐ作用があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院生命科学研究部循環器内科学の石井正将医師、海北幸一准教授、国立循環器病研究センターの小川久雄理事長らによるもの。研究成果は、ヨーロッパ心臓病学会2017年年次集会で発表され、科学雑誌「JACC;Basic to Translational Science」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
LCZ696は、従来の降圧薬「バルサルタン」と、臓器保護的な作用をもたらすネプリライシン阻害薬「サクビトリル」を組み合わせた新規の薬剤。欧米では、心臓の収縮力が低下した慢性心不全の治療薬の第一選択としてガイドラインで推奨されており、心臓死および心不全による入院を少なくすることが大規模臨床試験で証明されている。一方で、慢性心不全の原因となる急性心筋梗塞の急性期の治療に有用かどうかは明らかになっていない。
炎症に関わるサイトカインや組織分解に関わるMMP-9の遺伝子の働きが低下
研究グループは、野生型マウスに対して人工的に心筋梗塞を作成し、LCZ696の効果を検討。心筋梗塞を作成後、1日後より何も投与しないコントロール群、ACE阻害薬投与群、LCZ696投与群に振り分けて経過をみた。その結果、心筋梗塞後1週間以内に発生する心破裂による死亡率は、コントロール群やACE阻害薬投与群と比べて、LCZ696投与群で低いことが判明。心破裂を抑制したメカニズムを調べるために、心筋梗塞部での遺伝子発現を解析すると、LCZ696投与群で炎症に関わるサイトカイン(IL-1β、IL-6)や組織の分解に関わるMMP-9の遺伝子の働きが低下していることが明らかになったという。
また、心臓の病理組織を顕微鏡で観察したところ、炎症細胞の数はすべての群において変化がなかったが、MMP-9の働きはLCZ696投与群で低下していた。さらに、マウスのマクロファージを用いた培養細胞の実験では、バルサルタン単独群、サクビトリル単独群よりも、LCZ696群で、炎症に関わるサイトカインやMMP-9の働きが抑えられることが確認されたという。
今回の研究結果から、LCZ696は急性心筋梗塞の急性期においても心臓の保護効果を持っており、心破裂を抑える働きが明らかになったとし、今後、慢性心不全だけでなく、急性心筋梗塞後の治療にも応用されることが期待される、と研究グループは述べている。
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