同センターでは、文部科学省の「最先端研究基盤事業化合物ライブラリー拠点」における全国6拠点の一つとして、日本発の創薬を目指しており、短期間で化合物ライブラリーからスクリーニングできる体制を整備した。ただ、前仲氏は、「ヒット化合物からリード化合物の最適化、その後の薬物動態試験と創薬を進めてきたが、後期段階の動物を用いた毒性評価までいくと、資金的な壁にぶつかってしまう」とアカデミア創薬の限界点を指摘する。
こうした課題から、前仲氏はアカデミアが創薬で果たすべき機能として、「ヒット化合物からリード化合物に展開していく際に、化合物の合成は製薬企業に任せ、大学は標的蛋白質の立体構造解析に集中するのが最適ではないか」と話す。
そのスクリーニング手法がFBDDだ。FBDDは標的蛋白質に親和性が高い分子量250以下のフラグメント化合物を連結し、活性が高い医薬品候補化合物に仕上げていくアプローチだ。
もともと前仲氏は、構造生物学の専門家。大塚製薬の樋口達夫社長が北海道大学出身である縁からサポートを受け、FBDDで世界の先頭を走る大塚英国子会社「アステックス・ファーマシューティカルズ」の研究所を見学した。アカデミアがFBDDを取り入れる重要性を痛感したという。
同センターでは、フラグメントの化合物ライブラリーを保有し、核磁気共鳴法(NMR法)を用いた化合物スクリーニングを行える体制を持つ。標的蛋白質に活性を示すヒットフラグメント化合物については、大阪大学蛋白質研究所の協力を通じてデータを収集している。
NMR法だけではなく、最先端の英国放射光施設「ダイアモンド」を活用し、X線結晶構造解析によるスクリーニングを強化する。ダイアモンドでは、標的蛋白質に対する大量のフラグメント化合物のX線回折データセットをわずか1日で収集でき、自動化されたプロセスで構造決定を行えるため、研究のスピードも向上させていく考えだ。
今後は、自身が客員教授を務める英オックスフォード大学と協業し、新たな創薬標的が探索可能なクライオ電子顕微鏡を用いた蛋白質の構造解析にも着手していく方向だ。クライオ電顕は、標的蛋白質の構造解析でブレイクスルーになると見られており、従来は探索が難しかった創薬標的に対しても、原子レベルでの分解能を持った構造解析も可能になる。前仲氏は、「薬を創るだけではなく、基礎研究のバックグラウンドに役立てられるようにしたい」と大学の強みを生かした研究を強調する。