DNAに傷を付け、細胞増殖を抑制するシスプラチンや放射線
東北大学は8月29日、がん治療において放射線やシスプラチンが効くメカニズムを発見したと発表した。この研究は、同大加齢医学研究所の安井明加齢医学研究所フェロー・東北大学名誉教授らによる研究グループによるもの。研究結果は、「Philosophical Transaction of the Royal Society (Biology) 」誌に掲載された。
がん治療で広く使われる放射線や化学物質のシスプラチンなどは、細胞のDNAに傷を付け、細胞の増殖を抑制する。しかし、がん細胞にも正常細胞と同様にDNAの傷を修復する機構があることから、効果的ながん治療には、付けた傷ががん細胞で直しにくいことが必要となる。
BAF因子欠損細胞、とくにシスプラチンに高感受性示す
研究グループは今回、先行研究により決定したBAF因子の放射線、紫外線、シスプラチンへの感受性を詳しく解析。その結果、BAF因子欠損細胞は、とりわけシスプラチンに高感受性で、70%以上のシスプラチンで生じるDNA損傷が細胞死につながることが判明した。細胞死はがん細胞で変異が高頻度に起きるp53というタンパクが重要な役割を果たしているが、BAF因子とp53の変異の分布に重複は見られず、少なくとも初期のがんでは、BAF因子の変異細胞はシスプラチンに高感受性だと考えられるという。
これまで、シスプラチンは経験的に良く効く薬剤として広くがん治療に使われてきたが、その理論的根拠は示されていなかった。今回の研究成果は、その理論的説明を与えるもので、がん治療の効率化につながり、初期のがん治療の効果向上が期待できるとしている。
また、DNA損傷が細胞のがん化や老化の原因になることは知られていたが、DNA修復の能力はがん細胞や老化細胞でも通常細胞や若い細胞と変わらず、年齢とともにがんが頻発し老化が加速する現象には十分な説明がなかった。今回明らかになったDNA修復をサポートする機構が、年齢とともに弱体化してDNA損傷が十分に修復されず、細胞死や変異を産み出すことがその理由になりうることを提唱した、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース