シナプス異常との関連が強く示唆される自閉症
理化学研究所は8月26日、自閉症(自閉スペクトラム症)の発症に関与する可能性がある遺伝子として、新たに「NLGN1」を同定したと発表した。この研究は、理研脳科学総合研究センター精神生物学研究チームの内匠透シニアチームリーダー、仲西萌絵リサーチアソシエイトらの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、米オープンアクセス科学雑誌「PLOS Genetics」に掲載されている。
画像はリリースより
自閉症の発症には、遺伝的要因が大きく関与することが知られており、さまざまな遺伝子変異が発症に関与すると考えられている。しかし、原因となる遺伝子の全容と詳しい分子メカニズムはよくわかっていない。近年、シナプスに関連する遺伝子の変異が多く同定されていることから、シナプス異常と自閉症の関連が強く示唆されている。
シナプス膜に存在する分子Neuroligin(NLGN)と、その結合分子Neurexin(NRXN)、Shankから構成されるNLGN-NRXN-Shank経路では、これまでに複数の自閉症関連遺伝子が同定されており、この分子経路の異常は自閉症の発症と強く関連していると考えられる。これまでに、NLGNファミリーのNLGN3やNLGN4が自閉症関連遺伝子だと解明されていたが、他の分子の関与は明らかになっていなかった。
自閉症発症におけるNLGN-NRXN-Shank経路の重要性を裏付け
研究グループは、自閉症患者から新たにシナプス関連遺伝子NLGN1の変異を同定。患者で発見された変異がNLGN1タンパク質の減少などの異常を引き起こしていること、また、シナプス形成不全などの機能喪失を引き起こしていることが判明した。さらに、患者で発見された変異を導入したモデルマウスを作製した結果、変異を持ったマウスは社会的コミュニケーションや空間記憶能力などに異常を示すことが明らかになったという。
これまでに、NLGN-NRXN-Shank経路の異常は、自閉症の発症において重要であると考えられてきたが、今回の成果はその仮説を裏付けるものだという。今後、ヒトの患者と同じ変異を持ったマウスの解析を行うことで、NLGN-NRXN-Shank経路を標的とした治療薬の開発や自閉症のメカニズムの解明につながると期待される、と研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース