ALSに似た筋力低下や脊髄運動ニューロンの脱落を引き起こす
東京医科歯科大学は8月24日、脊髄のグリア細胞の機能異常が筋萎縮性側索硬化症(ALS)に似た進行性の筋力低下や脊髄運動ニューロンの脱落を引き起こすと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所分子神経科学分野の田中光一教授、杉山香織大学院生、相田知海准教授の研究グループが、九州大学、スイスのZurich 大学と共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌「Journal of Neuroscience」のオンライン版で発表されている。
画像はリリースより
ALSは、脳・脊髄にある運動ニューロンが変性・脱落し、進行性の筋力低下を引き起こす疾患。その発症機序は不明であり、有効な治療法が存在していない。ALSの患者では脳・脊髄のグリア細胞に存在するグルタミン酸輸送体(グリア型グルタミン酸輸送体)GLT1の発現が減少することや、ALSモデル動物ではグリア型グルタミン酸輸送体GLT1とGLASTが共に減少することが報告されており、これらのグリア細胞の異常が運動ニューロンの変性・脱落に関与することが推定されている。しかし、グリア型グルタミン酸輸送体の発現減少が運動ニューロンの変性・脱落の直接的な原因か、運動ニューロンの脱落に伴う二次的な現象なのかは不明だった。
ALSに似た症状、ペランパネルやSNJ-1945で長期的に改善
今回の研究では、グリア型グルタミン酸輸送体(GLT1とGLAST)を脊髄から欠損させた、脊髄GLT1/GLAST欠損マウスを作成し、脊髄運動ニューロンに変性・脱落を引き起こし得るかを検討。その結果、脊髄GLT1/GLAST欠損マウスは、進行性の下肢麻痺および運動ニューロンの脱落といったALSに似た症状を呈することを発見。さらに、脊髄 GLT1/GLAST欠損マウスの運動ニューロンでは、タンパク分解酵素のカルパインが過剰に活性化され、核-細胞質間輸送に関わる核膜孔複合体(NPC)の構成成分(NUP)が分解され、核に形態異常が起こることを見出した。また、脊髄 GLT1/GLAST欠損マウスのALSに似た症状やNUPの分解は、AMPA型グルタミン酸受容体阻害剤「ペランパネル」およびカルパイン阻害剤「SNJ-1945」により長期的に改善されることを明らかにしたという。
グリア型グルタミン酸輸送体の機能障害は、ALSだけでなく、アルツハイマー病や脳梗塞などでも報告されている。今回の研究成果は、これら疾患の病態解明や新規治療法開発にも貢献できる、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース