308例の日本の症例とThe Cancer Genome Atlasの症例を対象
名古屋大学は8月18日、大規模ゲノム解析の結果を用いて、低悪性度神経膠腫各群のなかでも特定の遺伝子変異を持つ腫瘍は、予後が悪いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学大学院医学系研究科脳神経外科学の夏目敦至准教授、青木恒介特任助教、京都大学大学院医学研究科の小川誠司教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Neuro-Oncology」に掲載されている。
画像はリリースより
低悪性度神経膠腫(WHO grade IIもしくはIII)は、進行は緩徐だが、浸潤性に増殖する原発性脳腫瘍。その遺伝子異常と患者予後に関する網羅的な解析は、これまでほとんど報告されていなかった。
今回、研究グループは、次世代シークエンサー等を用いて網羅的に遺伝子異常の解析を行った308例の日本の症例と、公開データであるThe Cancer Genome Atlasの症例を対象として、2016年に改定されたWHO分類に従い、各subtypeに分けた上で、遺伝子異常が患者予後に与える影響について検討した。
WHO gradeよりも正確に患者予後を予測することが可能に
その結果、「OligodendrogliomaとIDH-mutant and 1p19q-codeledではNOTCH1変異を持つことや手術で腫瘍を全摘出できなかったこと」、「AstrocytomaとIDH-mutantではPIK3R1変異もしくはretinoblastoma(RB)経路に関わる遺伝子群(CDK4、CDKN2A、RB1)に異常を持つこと」、「IDH野生型低悪性度神経膠腫では、TERTプロモーター変異、染色体7p増幅、10q欠損をすべて持つこと」、「WHO grade IIIが患者の予後不良と有意な関連」を示したという。また、IDH野生型低悪性度神経膠腫において、同定した因子を1つ以上持つ群(高リスク群)と因子を持たない群(低リスク群)では、患者の生存期間や年齢、DNAメチル化のパターンなどの点が大きく異なっており、生物学的に異なる腫瘍であることが示唆されたとしている。
今回、同定した予後不良因子を用いることで、 多くのsubtypeでは、現在、腫瘍の悪性度の指標として用いられているWHO gradeよりも正確に患者予後を予測することが可能となるという。また、IDH野生型低悪性度神経膠腫においては、同定した予後不良因子を持つ群と持たない群は生物学的に異なる腫瘍であることが示唆されたことにより、IDH野生型低悪性度神経膠腫をより正確に理解する大きな助けとなると考えられる。一方、平均生存期間の長いOligodendroglioma IDH-mutant/1p19q-codeletでは、正確な予後因子の抽出が行えなかった可能性があるため、今後、新たなコホートで再解析されることが求められる、と研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース