がんの治療抵抗性の要因のひとつに挙げられる「腫瘍内ヘテロ性」
杏林大学は8月4日、腎がんの代謝特性に腫瘍内ヘテロ性が存在することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学泌尿器学の桶川隆嗣教授らが、武田薬品工業株式会社と共同で行ったもの。研究成果は、オンライン出版誌「EBioMedicine」に掲載されている。
近年、遺伝子異常に関する研究が盛んに行われ、多くのがん遺伝子・がん抑制遺伝子が同定されてきた。しかし、がん細胞の生存や増殖には、遺伝子以外に細胞内代謝のメカニズムが重要な役割を担う、ということが提唱されている。
一方、実際のがん治療では、がんが治療抵抗性となることが問題になる。その要因のひとつに、腫瘍内ヘテロ性が挙げられており、遺伝子に関する腫瘍内ヘテロ性についてはさまざまながん種で多数の研究がおこなわれてきた。しかし、代謝特性に関する腫瘍内へテロ性については、十分に明らかにされていない。
ピルビン酸代謝が治療標的となる可能性
研究グループは、同大学医学部付属病院で腎摘除術を行った腎がんの手術標本を用いて、同一標本内の異なる部位の代謝物質解析を実施。その結果、腫瘍内の代謝物プロファイルが部位毎に異なることを明らかにした。これは、代謝特性に関して腫瘍内へテロ性が存在することを示しているという。
さらに、ピルビン酸代謝活性が腫瘍組織の部位により異なることから、研究グループはピルビン酸に着目。ピルビン酸が腎がん細胞の増殖を促進すること、ピルビン酸トランスポーターの阻害がマウスに移植したヒト由来腎がん組織の増殖を遅らせることが判明したという。これは、腎がん細胞の増殖にピルビン酸が強く関係しており、ピルビン酸代謝が治療標的のひとつとなることを示唆している。
今回の研究成果により、がんの代謝解明およびがんの代謝を標的とした治療薬開発への発展につながることを期待する、と研究グループは述べている。
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・杏林大学 医学部研究成果