■薬局薬剤師の業務発展に
ケーアイ調剤薬局西餅田店(鹿児島県姶良市)の薬剤師は、近隣の皮膚科診療所の医師から依頼を受けて、院外処方箋発行前に、患者個々の腎機能を踏まえた最適な投与量を提案している。対象は、帯状疱疹患者に処方する抗ウイルス薬2剤。医師は、薬剤師の提案を参考に投与量を決定し、院外処方箋を発行する。医師の負担軽減に役立つほか、医療の質の向上にも貢献しているようだ。処方箋発行後の疑義照会だけでなく、病院薬剤師のように処方決定前への関わりを深めることは、今後の薬局薬剤師業務の発展につながる可能性がある。
同店の近隣にある西クリニックの皮膚科医、西正行氏は、帯状疱疹と診断した患者にファムシクロビルやバラシクロビルを処方する時に、必要に応じて同店に電話をかけて投与量の設計を依頼する。高齢で腎機能が低下していると推定したり、体が小さかったりして、減量の必要性があるかもしれないと判断した場合に依頼することが多い。
連絡を受けた同店管理薬剤師の井上彰夫氏は、同クリニックの看護師から、患者の年齢、性別、身長、体重、血清クレアチニン値、併用薬を聞き取る。その値をもとに、腎機能の指標の一つである推算糸球体濾過量(eGFR)を算出する。血清クレアチニン値は不明なことが多いため、その場合はひとまず実質的な下限値と考えられる0.6を代入して計算する。これら抗ウイルス薬2剤は、腎機能に応じた4段階の投与量が添付文書で示されている。算出した腎機能をもとに添付文書に沿って薬剤師は投与量を提案する。
昨年1年間に来局した約200人の帯状疱疹患者の実態を調べると、薬剤師は3割強の患者について事前に投与量を提案していた。提案の約7割は減量、約3割は通常量だった。薬剤師の提案をもとに医師が意思決定し院外処方箋を発行するが、提案の受諾率は高いという。
これらの抗ウイルス薬を腎機能が低下した患者に減量せずに投与すると、十分に排泄されずに血中濃度が高まり、脳症など様々な副作用が引き起こされる危険性がある。一方、必要な量を投与しなければウイルスの増殖を抑える効果が弱まってしまう。個々の腎機能に応じた最適な投与量の設計が必要とされている。
このような医師と薬剤師の連携が始まったのは4年以上前からだ。同店の応需処方箋のうち、西クリニック発行の処方箋が占める割合は65%。以前から、専門外である内科系薬の選択などについて処方決定前に、西氏から電話で薬剤師の意見を求められることがたびたびあった。その問い合わせの一つとして、腎機能に応じた投与設計の依頼が始まった。
医師の要望に応えようと井上氏は段階的に知識を習得。数年前から、eGFRを算出しそれに基づく投与量を回答するようにした。「血清クレアチニン値が分からないと正確な腎機能の評価はできないが、多くの患者では不明。しかし、現実的にその時点で投与量を設定しなければならない。そこで、仮の値として0.6を代入してeGFRを算出し、併用薬から推察される基礎疾患も考慮した上で、十中八九投与量を減らさなければいけない場合に減量を提案している」と語る。
この連携について西氏は、毎日多数の患者の診察に追われる中、「製薬会社から提供された投与量の目安を記した表と照らし合わせて、適切な投与量を考えるのは手間がかかる。患者さんが服用している薬との相互作用のチェックも含め、薬剤師に依頼し回答を得られるのは助かっている。診察時間の短縮にもつながる」と評価する。
井上氏も「事前に関与した場合には、重複投薬・相互作用等防止加算を算定できないものの、医師から依頼があるのはありがたい。薬剤師としてのやりがいになる。直接のお金にはつながらなくても、個々の患者さんに合わせた薬の投与設計には薬剤師が積極的に関わるべきだと思う」と話す。
事後の疑義照会が減少するため、薬局における患者の待ち時間も短くなる。総合的に医療の質の向上や効率化につながる可能性がある。構造上、薬剤師の介入による効果や安全性は評価しづらいが、関与した中で有効性や副作用に問題が生じた症例はなかったという。