さまざまな疾患の発症に関与するオートファジーの異常
東京医科歯科大学は7月31日、腸上皮幹細胞(ISC)の維持にオートファジーが必要不可欠であることを発見したと発表した。この研究は、同大学難治疾患研究所・生体防御学の樗木俊聡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Cell Reports」オンライン速報版で発表された。
画像はリリースより
オートファジーの異常は、さまざまな疾患の発症に関与する。近年、増加傾向の炎症性腸疾患(IBD)の発症にもオートファジーが関与し、ヒトおよびマウスのオートファジー関連遺伝子「Atg16L1」の変異が、パネート細胞からの抗菌ペプチド産生低下等を介して、クローン病発症に関与することがわかっている。
ISCは、高い自己複製能と上皮細胞への分化能をもち、2~5日ですべての腸上皮細胞を新しいものに入れ替えるが、腸上皮再生の起点となるISCにおけるオートファジーの役割は、これまで明らかにされていなかった。
腸管障害疾患の新たな治療法開発に期待
研究グループは、ISCにおけるオートファジーの役割を検討。まず、ISCで常時オートファジー機構が活性化していることを複数の指標(LC3の発現、p62の低下等)で明らかにした。次に、腸上皮細胞のみでオートファジー関連遺伝Atg5を欠損するマウス(Atg5ΔIECマウス)を作製。解析の結果、Atg5ΔIECマウスのISC数はコントロールマウスと比較して著減しており、放射線照射後の腸上皮再生に障害があることが判明した。
また、腸上皮のうち、パネート細胞のみオートファジー機構が正常に機能するマウスでも、ISC数の低下や放射線照射による再生不全が観察されたという。このことから、ISC自身のオートファジー機構の破綻が、パネート細胞非依存性に、腸上皮再生不全をもたらしていることが示唆された。さらに、詳細なメカニズムを追求した結果、オートファジー機構の欠損による活性酸素種(ROS)の蓄積がISC数減少の一因と考えられたという。
今回の研究成果は、ISCにおけるオートファジー機構の重要性を示すものであり、同機構を最適化することによって、腸管障害疾患の新たな治療法開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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