細菌感染に反応することがわかってきた造血幹細胞
熊本大学は7月26日、細菌感染が造血幹細胞を活性化し、増殖を強制的に誘導するストレスを与えることで、血液産生能力を著しく低下させることを見出したと発表した。この研究は、同大国際先端医学研究機構の滝澤仁特別招聘教授らと、チューリッヒ大学病院血液内科のグループとの国際共同研究によるもの。研究成果は「Cell Stem Cell」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
細菌感染時、免疫細胞は「Toll様受容体」を用いて病原菌を非自己として認識し、病原菌を特異的に攻撃する。近年、免疫細胞だけでなく造血幹細胞も感染に対して反応することがわかってきた。しかし、この造血幹細胞が細菌感染に対してどのように反応するのか、幹細胞機能がどのように影響を受けるのかについては、よくわかっていなかった。
細菌感染が貧血や白血病を引き起こす可能性
研究グループは、造血幹細胞もToll様受容体を持つことに注目し、細菌感染におけるToll様受容体の役割を解析。敗血症を引き起こす原因分子として知られるリポ多糖を実験動物に与えて、細菌感染モデルを作製した。さらに、Toll様受容体や関連分子をもたない遺伝子組換え動物や、分子を阻害する薬剤を組み合わせることで、これらの遺伝子の役割を詳細に解析したという。
その結果、全身に広がったリポ多糖の一部は骨髄にまで到達し、造血幹細胞のToll様受容体を刺激して、造血幹細胞を増殖させることが判明。刺激によって造血幹細胞は一時的に増殖するが、うまく自己複製分裂ができなくなり、結果的に血液を造り出す能力が弱まることがわかったという。さらに、この分子メカニズムを薬で阻害した結果、感染に対する免疫反応を邪魔することなく造血幹細胞の能力を保持することに成功。また、リポ多糖だけでなく、サルモネラ菌に感染させた場合にも、同様の結果が引き起こされることが判明したという。
今回の研究成果により、細菌感染が生じた際、造血幹細胞の細胞分裂が強制的に誘導され、そのストレスが蓄積した結果、貧血などの造血不良や白血病などのがん化を引き起こす可能性が示唆された。この反応を薬で阻害できれば、感染防御と血液疾患の予防を同時に行えることが可能になることが期待される、と研究グループは述べている。
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