プロドラッグを抗がん剤へと変換できる酵素封入型ナノデバイスとして機能
京都大学は7月25日、物質透過性を持つ糖鎖高分子ベシクルを新たに開発し、がん組織周囲でプロドラッグを抗がん剤へと変換できる酵素封入型ナノデバイス(ナノファクトリー)として機能することを見いだしたと発表した。この研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業で、同大学大学院工学研究科の西村智貴特定研究員、秋吉一成教授の研究グループが行ったもの。研究成果は、独科学誌「Advanced Materials」のオンライン速報版で公開された。
画像はリリースより
リン脂質からなるリポソームや両親媒性ポリマーからなるベシクルは、酵素反応場としての応用が進められている。しかし、これらの分子集合体は物質透過能が低く、酵素基質を外部から供給できないため、長期的に酵素反応を進行させることができなかった。
抗腫瘍効果をマウスで確認
研究グループは、糖鎖とポリプロピレングリコールからなる両親媒性ポリマーが形成する糖鎖高分子ベシクルが、分子量の違いによって選択的に物質透過性を示すことを発見。また、酵素を安定に封入し、内部で安定に保持できることがわかったという。この酵素封入ベシクルは、外部から基質を内部の酵素に供給でき、酵素反応生成物を外部に放出できる機能を持つことが判明。さらに、このベシクルは血中投与により生体内のがん組織周囲に集まり、プロドラッグを抗がん剤へと変換し、優れた抗腫瘍効果を示すことがマウスで実証されたという。
糖鎖高分子ベシクルは、さまざまな酵素を用いて長期的に酵素反応を進行させる技術につながると期待される。また、薬剤を患部に選択的に送達することで副作用を低減しながら治療効果を高めるドラッグデリバリーシステムが抱えていた、がん組織以外への副作用を解決し、より優れた治療効果をもたらす新たながん治療に役立つことも期待される。さらに、内包させる酵素を変えることで、さまざまな基質に対応でき、がんのみならずさまざまな疾患に対して有効な治療法の開発にもつながると、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果