全身の免疫反応を抑制する天然の免疫抑制分子「HLA-G1」
北海道大学は7月14日、HLA-G1タンパク質溶液をアトピー性皮膚炎マウスの炎症部位に塗布することで、アレルギー反応を抑制でき、皮膚炎治療に効果があることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の前仲勝実教授と黒木喜美子助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Immunopharmacology」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
ヒト主要組織適合性複合体(MHC)の1つであるHLA-Gは、胎盤、胸腺、腫瘍細胞に存在する非古典的MHCクラスIタンパク質。妊娠時の胎盤では、母親にとって“異物”である父親の遺伝情報をもつ胎児を、母親の免疫から守る必要があるため、胎児は母体の免疫細胞表面の抑制性受容体に結合することで免疫抑制シグナルを伝達するHLA-Gタンパク質を発現させることによって、母体の免疫を制御し、妊娠を成り立たせている。また、がんなどの腫瘍細胞等がHLA-Gを発現することによって、周囲の免疫細胞の自己寛容を誘導していることも報告されている。
HLA-Gは多様なタンパク質の形で存在するが、なかでもHLA-G1は生体内で最も存在量が多いHLA-Gタンパク質。これまでに研究グループでは、HLA-G1タンパク質を皮下投与することによって、関節リウマチモデルであるコラーゲン誘導性関節炎マウスの関節炎症を緩和できることを明らかにしてきていた。
HLA-G1の抗炎症バイオ医薬品としての効用を検討
今回の研究では、HLA-G1の抗炎症バイオ医薬品としての効用をさらに検討するために、ダニ虫体成分を含む軟膏を塗ることで人工的にアトピー性皮膚炎の症状を誘発したマウスを用いて、炎症抑制作用の有無を観察。その結果、HLA-G1タンパク質溶液を炎症患部に塗布することによって、Th2/Th17が関与するアレルギー反応を抑制し、皮膚炎症に治療効果を示すことを解明した。
この研究結果から、HLA-G1は炎症部位の皮膚から血中に吸収されることで、アレルギー反応を誘起するTh2細胞応答およびTh17細胞応答を共に抑制し、皮膚炎症に対する治療効果を発揮することが明らかになった。既に報告済みのコラーゲン誘導性関節炎モデルマウスに続き、アレルギーモデルマウスでも免疫抑制効果を示したことから、過剰な免疫反応が誘起する慢性炎症疾患に対するHLA-G1タンパク質による広範な治療効果・予防効果が期待される、と研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース