決定的な証拠はなかった「生きた細胞」での収納の様子
国立遺伝学研究所(NIG)は7月12日、生きた細胞内におけるDNAの収納の様子を観察することに世界で初めて成功し、DNAは不規則に折りたたまれ「クロマチンドメイン」とよばれる小さな塊を形作っていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の野崎慎研究員、前島一博教授らと、大阪大学の永井健治教授、理化学研究所の岡田康志チームリーダーの共同グループによるもの。研究成果は「Molecular Cell」に掲載されている。
画像はリリースより
私たちの体を構成する一つひとつの細胞には、全長2mにおよぶDNAが収められている。このDNAは直径2nmととても細い糸で「ヒストン」という樽状タンパク質に巻きつくことで、直径約11nmの「ヌクレオソーム」を作る。これまでDNAは規則正しくらせん状に折り畳まれ、細胞の核の中に収められていると考えられていた。ところが近年、この規則正しい構造は存在せず、不規則に核のなかに収納されていることがわかってきたが、実際の収納の様子を「生きた細胞」で捉えた決定的な証拠はなかった。
「クロマチンドメイン」が核内で動く様子を世界で初めて観察
研究グループは、ヌクレオソーム一つひとつを観察できる超解像蛍光顕微鏡を構築することで、クロマチン実体を「生きたままの細胞」で観察することを実現。その結果、クロマチン線維の代わりに、多数のヌクレオソームが不規則に折りたたまれることで形作られる直径約160nmのコンパクトな塊「クロマチンドメイン」が核内で動く様子を世界で初めて観察することに成功した。さらに、ヌクレオソーム間の結合とクロマチンを束ねるのに必要なコヒーシンタンパク質が重要であることも明らかになったという。
クロマチンドメインは、ブロックを形成することでタンパク質のアクセスを調節し、情報検索の制御や効率化に関わっていると考えられる。また、DNAの折りたたみがおかしくなると、細胞ががん化するなどのさまざまな異常をもたらすことが近年分かってきている。今回の研究成果によって、遺伝情報がどのように検索され、読み出されるのかについての理解がさらに進むとともに、このような細胞の異常や関連疾患の理解が進むことが期待される、と研究グループは述べている。
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・国立遺伝学研究所(NIG) プレスリリース