小児がんの重要な原因であるファンコニ貧血
京都大学は7月13日、白血病の原因となる小児遺伝性疾患「ファンコニ貧血」がRFWD3という遺伝子の異常によって引き起こされることを発見したと発表した。さらにRFWD3には、DNA修復の制御タンパクであるRPAとRAD51を適切なタイミングでDNA上から取り除く分子機能があることも明らかになった。この研究は、同大放射線生物研究センターの高田穣教授、医学研究科の稲野将二郎博士課程学生(現・関西電力病院医員)らの研究グループが、独ビュルツブルグ大学、スペインのバルセロナ自治大学と共同で行ったもの。研究成果は「Journal of Clinical Investigation」に7月11日付けで掲載されている。
画像はリリースより
小児の再生不良性貧血、急性骨髄性白血病、がんの重要な原因であるファンコニ貧血は、日本では100万人に10人程度と稀ながら、DNA損傷修復の欠損による典型的な病態として有名な疾患。また、家族性乳がんと原因遺伝子が共通であるため学術的な重要性が高く、注目されている。ファンコニ貧血はDNA損傷のうち、DNA鎖間架橋(ICL)というタイプの損傷が修復できないために引き起こされる。ICL損傷は抗がん剤のシスプラチンや体内のアルデヒドによって引き起こされるタイプの損傷で、遺伝子の転写やDNA複製を妨げる。現在までに20以上の原因遺伝子とそのICL修復機能が報告されてきた。
RFWD3を欠失した細胞ではDNA修復の活性が劇的に低下
今回の研究では、ドイツで見つかった10代の患者の遺伝子解析から原因遺伝子候補としてRFWD3が同定されたことをきっかけにスタート。RFWD3に異常をもつ患者の細胞では、ICLを導入する薬剤(シスプラチン等)に強い感受性を持っていた。この感受性は、RFWD3を導入することで回復。さらに、研究グループはニワトリのリンパ球でRFWD3のノックアウト細胞を作成し、ファンコニ貧血として妥当な性質が得られることを確認。さらに、患者で見られたアミノ酸を変化させる変異がRFWD3のDNA修復機能を抑制することを確認し、重要なDNA修復タンパク質であるRPAとの結合力が低下しているというメカニズムを解明した。また、スペインの共同研究先で作成したノックアウトマウスでも同様の現象が見られることを確認したという。
さらに、RFWD3がICLの修復にどのように関わっているかを、「ヒト細胞株での実験」、「精製したタンパク質を使った実験」の双方で検証した結果、RFWD3はDNA修復の重要な制御因子であるRPA、RAD51という2つのタンパク質をDNA上から取り除くことで、DNA修復のスムーズな進行を担保しているということを証明。RFWD3を欠失した細胞ではRPA、RAD51の可動性が低下し、それに伴いDNA修復の活性が劇的に低下することから、きわめて重要な因子であることが示唆された。
今回の発⾒により、ファンコニ貧⾎の病態解明が⼀歩進み、DNA修復の分⼦機構についての知⾒は、抗がん剤によるがん治療戦略を考える上でも重要と考えられる。さらに、RFWD3はヘテロ変異のキャリアで家族性乳がん・卵巣がんなどを引き起こす可能性が予想される。これらのがんが⾎縁に多いにもかかわらず、既知の原因遺伝⼦に変異がない患者では、RFWD3が原因となっている可能性を検討する必要があるかもしれない、と研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果