基調講演を行った木村通男氏(浜松医科大学病院医療情報部)は、現在のAIブームについて1960年代、80~90年代に続く第3次ブームと指摘。その特徴はビッグデータを用いたディープラーニングで、評価の定まった大量のデータが存在する分野が得意と説明した。その上で、薬剤師の調剤業務に言及。「正しい薬を正確な量で患者に渡すだけであれば、AI以前にインターネットの通販サイトのアマゾンに取って代わられるだろう」と警告。薬局のカウンターで患者を観察したり、家族から話を聞いて「きちんと薬を飲んでいますか」と質問しているかどうか問題意識を投げかけた。
さらに、患者が本当のことを言っていない背景を見抜き、「会話の不自然さに気がついて、この薬剤師ならば本当のことを話しておこうと言われるようなアドバイスや洞察力を磨けば、少なくとも30年はAIに取って代わられることはないだろう」と見通した。
下堂薗権洋氏(九州保健福祉大学薬学部)は、人によるDI活動から病院情報システムでの利用、電子カルテからの医療情報収集と医療現場における医薬品情報活動の変遷を示し、第3次AIブームの現在、国のナショナルデータベースや医療情報データベース(MID-NET)など診療情報のビッグデータ解析による大規模な医薬品情報の評価へと進んできている状況を紹介。その上で、「大量のデータから新たなルールや知見の発見につながり、ビッグデータの利用によってAIを駆使した医薬品情報を生み出していくことになるのではないか」との考えを示した。
こうした時代における薬剤師業務について、「医療情報の能力を上げ、精度の高いデータを作る現場の力が必要。病棟業務や薬局での調剤など、薬剤師の活動に関する情報を整理して、使えるデータにしていくことが重要」と訴えた。
野村浩子氏(徳洲会薬剤部)は、米国ではIT専門薬剤師の地位が確立されているとし、日本では医療情報システムに詳しい医療情報技師の認定を持っている薬剤師が活動している現状を紹介。その上で、AI時代において薬剤師は、アウトカム重視の薬学的ケアに注力していくことが重要との考えを述べた。