不明だったコア構造体の崩壊制御メカニズムを解明
東京医科歯科大学は7月3日、エイズウイルス感染細胞内のウイルスコア構造体崩壊の原因が、細胞内リン酸化酵素MELKのコア構造体リン酸化によることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明助教と山岡昇司教授らの研究グループが、京都大学、国立感染症研究所、塩野義製薬株式会社と共同で行ったもの。研究成果は「PLOS Pathogens」に7月6日付けで掲載されている。
画像はリリースより
エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)は遺伝子としてRNAを持ち、感染標的細胞内で逆転写によってRNAを鋳型とするDNAを合成し、感染した細胞の遺伝子にウイルスDNAを組み込む。HIV-1が感染標的細胞に侵入する際には、ウイルス粒子に内包されているコア構造体を細胞内に放出し、コア構造体が「適切なタイミング」で崩壊する必要がある。このコア構造体には、ウイルスRNAや逆転写酵素等のウイルスDNA合成に必要な材料が入っているが、崩壊のタイミングを制御する具体的なメカニズムについては明らかになっていなかった。
宿主側感染制御因子を標的とした新規エイズ治療法開発に期待
研究グループは、HIV-1感染標的細胞のひとつであるCD4陽性Tリンパ 球を用いたゲノムワイドRNA干渉(RNAi)スクリーニングを行い、HIV-1感染を制御する宿主細胞内因子としてリン酸化酵素「MELK」(Maternal Embryonic Leucine Zipper Kinase)を発見。MELKのHIV-1感染制御能を解析したところ、MELKの発現を抑制したCD4陽性Tリンパ球がHIV-1に感染すると、ウイルスコア構造体の崩壊タイミングが遅れ、ウイルスDNA合成ステップが阻害されることが判明したという。また、MELKはコア構造体を形成するHIV-1キャプシドタンパク質(HIV-1 CA)の149番目のセリン残基:CA Ser-149を段階的にリン酸化することで、HIV-1コア構造体崩壊制御を行っていることもわかったとしている。
今回の研究成果によって、HIV-1コア構造体崩壊制御メカニズムが明らかになり、HIV-1感染に必要不可欠な宿主側要因がつきとめられた。発見した宿主タンパク質がリン酸化酵素であったことから、変異しやすいウイルス由来酵素タンパク質ではなく、宿主側感染制御因子を標的とした新規エイズ治療法開発への応用が期待できる、と研究グループは述べている。
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