感染研ウイルス第2部室長の清水博之氏、大阪大学大学院薬学研究科薬剤学准教授の岡田直貴氏がそれぞれ研究代表者を務める。阪大微研が提供するセービン株不活化ポリオワクチンを、富士フイルムが開発中のマイクロニードル製剤に封入し、実用化を目指した研究を進める。
富士フイルムが開発中のマイクロニードル製剤は、生体適合性高分子で形作った長さ300~800マイクロメートルの微小な針を、直径1cm前後の貼付面に多数並べたもの。フィルムや液晶分野で培った微細構造形成技術によって、微小な針先にピンポイントで、設定した用量の抗原を高い精度で封入できる。独自の成分配合によって、ヒトの皮膚に刺さった微小な針は5分以内に溶解する。溶解時間が短いほど、貼付後の局所反応を観察する待機時間は短くなり、実用性が高まる。
今後、阪大と富士フイルムが連携して試作品を作り、安定性などを評価する。さらに阪大微研も加わって針の長さや本数、最適な抗原量などを小動物の実験で検討する。その結果を踏まえて感染研は、サルモデルの実験で、貼付時間や回数など実用化に向けた検討を行う。18年度末までにこれらの実験を終えてデータを揃え、承認申請用の非臨床試験を開始する計画だ。
研究グループは、世界的な課題になっているポリオ根絶に、貼るワクチンを役立てたい考え。注射のワクチンは、低温を保ったまま輸送や保管を行う必要があり、接種には手技に長けた医療従事者が必要になる。発展途上国を含め世界の隅々にワクチンを普及させるには、こうした要因が壁になる。
一方、貼るワクチンは「低温を保つ必要はなく輸送や保管が容易で、接種も簡単に行える。また、注射のワクチンに比べ、少ない抗原量で同等の効果を発揮できると期待されている」(岡田氏)
製造や物流のコストを低く抑えられ、投与手技も容易であるため、発展途上国などに普及させやすいという。
現在、海外でインフルエンザワクチンのマイクロニードル製剤が第II相臨床試験段階に達するなど、世界的にこの領域の競争が激しくなりつつある。
日本でも各社が同製剤の技術開発を進めており、今回ポリオで貼るワクチンを実現できれば、他の感染症に水平展開しやすくなる可能性がある。
現在のポリオを含む4種混合ワクチンを、より痛みの少ない貼るワクチンに置き換えたり、はしかなど幼児や小児の他の定期接種ワクチンに導入したりすることが考えられる。肝炎ワクチンや日本脳炎ワクチンも候補になる。このほか「トラベラーズワクチンとして、海外渡航者向けに空港で簡単に接種できる仕組みがあればいい」と岡田氏は話している。