■オピオイド投与設計に関与
癌患者の緩和ケアで薬学的介入を行い、重大な副作用を回避できたことによる医療経済効果を推計したところ、約215万円に上ることが愛媛大学病院薬剤部の研究で明らかになった。薬剤師が医師に働きかけ、薬学的介入をした130件のうち60件で処方変更、30件で副作用回避につながった。特に医師による処方提案の採択率が高かったのが、薬剤師がオピオイドの投与設計から関与した薬学的介入で、15件中13件で処方変更に至った。緩和医療における薬剤師の役割を医療経済面から評価した研究成果は初めてという。同院薬剤部は「今回の結果により、緩和ケアチームにおける専任薬剤師の役割が明確化された」と分析している。
同院薬剤部では、昨年4~12月の9カ月間で緩和ケアチームに紹介があり、薬学的介入を実施した入院患者を対象に、介入方法とその医療経済効果を調査した。薬学的介入による副作用回避を医療経済効果で推計する上で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による2011年度の医薬品副作用被害救済制度を利用。支給総額約20億円から支給件数を割った1件あたりの支給額約214万円を指標とした。
その上で、薬学的介入によって重大な副作用回避につながる割合が約2.6~5.21%とする文献を根拠に、各治療での医療経済効果を算出。癌化学療法に対する薬学的介入では、214万円×5.21%の11万2000円、免疫抑制剤や抗HIV薬のハイリスク薬では3.91%の8万4000円、それ以外の薬剤では2.6%の5万6000円と規定した。
その結果、130件の症例のうち60件で薬剤師からの提案による処方変更が行われたことが判明。癌化学療法に対する介入では、薬剤師が薬学的介入を提案した11件中4件で処方変更が行われ、1件当たり11万2000円の金額で計算すると44万8000円の医療経済効果があったと推計された。
さらに、ハイリスク薬では13件中9件で75万6000円、その他の薬剤では53件中17件の95万2000円と、9カ月間で緩和ケアチーム専任薬剤師の業務より、医療経済効果は計215万6000円に達することが明らかになった。
処方変更が行われた薬学的介入について解析したところ、オピオイドの投与設計で15件中13件と医師の処方採択率が高かった。例えば、卵巣癌でイレウスを繰り返し、「デュロテップMTパッチ2.1mg」と「オキノーム散2.5mg/包」を服用していた患者では、レスキューの使用回数が1日4~5回と増加していたため、投与量のベースアップとレスキュー1回量の増量を提案し、デュロテップMTパッチ4.2mgとオキノーム散5mg/包に変更。腎障害や肝障害、併用薬と個々の患者背景が異なる中、多職種から情報を収集してオピオイドの治療計画に携わり、最適なオピオイド剤やベースアップを医師に提案するなど、チーム医療で薬剤師が重要な役割を果たしていることが分かった。オピオイドのスイッチングも、8件中4件で処方変更が認められた。
同院薬剤部は、「薬剤師からオピオイドの投与設計やスイッチングを医師に提案することで、患者の健康被害の未然回避につながった」と分析し、「緩和ケアチームにおける薬剤師の役割が院内で十分に周知されておらず、まずは認知を広げていく必要がある」としている。