数千万種類にも及ぶと推測されるT細胞レセプター
広島大学は6月19日、ウイルスに対して高い免疫応答性を示すCD8陽性T細胞は、ウイルスを認識するために、異なった個人の間で共有されているT細胞レセプター(共有TCR)を利用していることを解明したと発表した。この研究は、同大原爆放射線医科学研究所の川瀬孝和助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
T細胞は、病原体が感染した細胞やがん細胞を攻撃するために、抗原を見つけるTCRを、細胞1個あたり1種類発現している。多様な抗原に対応するために、ヒトの体内のT細胞が利用しているTCRは数千万種類にも及ぶと推測される。しかし、それらの中から特定の抗原を効率良く認識するTCRがどのような規則にしたがって選ばれているかについては、詳しいことがわかっていない。
現在、特定の抗原を認識するTCR遺伝子を新たに導入したT細胞を作成し、感染症やがんの治療に利用する研究が活発に進められているが、その有効性を向上させるためには、とくに強い免疫応答力を持つTCRを選び出す技術の開発が期待されている。
TCR遺伝子の配列を大量に取得、TCRを単一細胞のレベルで決定
今回の研究では、ウイルスに対して高い免疫応答性を示すCD8陽性T細胞が、ウイルスを認識するために、異なった個人の間で共有されている「共有TCR」を利用していることを発見。また、このような共有TCRは、長期免疫記憶を担う「幹細胞様メモリーT細胞」でとくに高い頻度で利用されていることを明らかにした。これまで、異なった個人がそれぞれもつ多数のTCRの共通性を比較することは困難だった。しかし、今回の研究では、次世代シーケンサーを用いてTCR遺伝子の配列を大量に取得し、さらにウイルスを認識するTCRを単一細胞のレベルで決定することで、共有TCRを見出したという。
今回の研究と同様の方法を用いれば、特定のウイルスやがん細胞に対してとくに強い免疫応答力をもつTCRを多数同定することが可能になる。しかし、優れた免疫応答力がすべての共有TCRに共通の性質であるのか、特定の共有TCRに限られた性質であるのかについては、まだ不明であり、今後さらに検証を行っていく必要がある、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・広島大学 研究成果