■手つかずの蛋白情報発掘へ
日本医療研究開発機構(AMED)は、新たな創薬標的を探索するため、最新型クライオ電子顕微鏡を多くの研究者が共用できる体制作りに乗り出す。世界的に創薬標的が枯渇する中、国内に4台しかないクライオ電顕の共用体制を作ることにより、手つかずだった膜蛋白質や天然変性蛋白質等に関する高解像度の動的構造情報から、新たな創薬標的を発掘したい考え。放射光と組み合わせ、最先端の構造解析ができる創薬研究のインフラ作りを急ぐ。
2017年度の医療分野の研究開発に配分する調整費で連携分野の一つである医薬品創出に44億円を投入。そのうち、最新型クライオ電子顕微鏡の共用ネットワーク構築に27億円を充て加速させる。
同事業構造解析ユニットでは、世界トップレベルの研究者と施設で作る蛋白質立体構造解析基盤を整備。多くの研究者を支援してきた中、16年度には日本で唯一、創薬研究を目的に共用の最新型クライオ電子顕微鏡1台を導入した。
クライオ電子顕微鏡は、これまで解析が難しかった蛋白質の構造決定が可能とされる最新型の解析機器。創薬標的の枯渇が世界中で課題となる中、放射光解析や分子動力学計算を組み合わせた最先端の構造解析技術インフラを整備することで、手つかずだった膜蛋白質や天然変性蛋白質の高解像度の動的構造情報から、新たな創薬標的が発掘されることに期待が高まる。
ただ、欧州、米国、中国では最新型クライオ電顕の導入が80台以上と急速に進んでいるが、日本は4台と圧倒的に不足しているのが現状。特に創薬研究を目的とした最新型クライオ電顕は1台体制と処理能力に限界が見られ、解析支援は停滞しつつあることから、AMEDは早急な対応が必要と判断。今回、調整費を充てることにより、全国の研究者が最新型クライオ電顕を効率的に利用できるよう共用ネットワークを構築することにした。さらに、放射光解析や蛋白質の動的構造変化を捉える分子動力学的計算を組み合わせ、最先端の構造解析ができる創薬研究のインフラ作りを加速させる。
具体的には、同事業の構造解析ユニット内に、国内でクライオ電顕のある施設をネットワーク化。増強した最新型クライオ電顕を中心に、蛋白質の三次元動的構造をもとに精密な薬剤設計をするなど世界トップクラスの構造解析ができる共用インフラ拠点を整備する。また、欧米との競争力を確保するための専門人材も育成し、合理的な薬剤設計による新規創薬標的の増加を目指す。