■行政・企業に提言
製薬企業の60%がバイオシミラー(BS)を開発するための体制整備が「十分でない」と考えており、厚生労働省や経済産業省など「行政からの支援」を期待していることが、厚生労働科学特別研究事業「バイオシミラー使用促進のための課題解決に向けた調査研究」(研究代表者:豊島聰武蔵野大学薬学部大学院薬科学研究科特任教授)のアンケート調査で明らかとなった。企業側は、BSの開発費用が高額になることを踏まえ、行政によるBS開発・承認申請を効率的に進めるための指針・ガイドライン作成や、国内の委託製造業者(CMO)、治験実施体制の充実といった「国内のインフラ整備」に期待していた。また、一般の認知度が低いことから、BS使用の意思決定に必要な情報を提供する医師、薬剤師の役割の重要性も示された。
■医師、薬剤師の情報提供も重要
アンケートは、今年1~2月にかけ、日本製薬工業協会バイオ医薬品委員会やバイオシミラー協議会、日本ジェネリック製薬協会の会員企業90社を対象に実施。56社が回答した(回収率62%)
調査では、BSの開発経験がある企業は30%にとどまっていることや、内資・外資とも事業規模1000億円以上の企業では、開発経験があり、ある程度自社での製造体制を有しているものの、1000億円未満の内資系企業ではCMO依存率が高いことが分かった。
その上で、事業規模によらず、「BS分野参入の最大のハードルは自社の製造技術基盤の有無」と指摘。多くの企業がBS開発の体制整備が十分でないと感じており、行政によるバイオ人材の育成、国内CMO、治験実施体制の整備などが必要としていたことから、「この課題解決が喫緊に必要と考えられる」と考察した。
BSの有効性・安全性が医療関係者や国民に正しく認知されていないため、開発しても医療現場で使用される見込みがつきにくい状況となっていることも浮かび上がった。
医療従事者の意識・理解調査では、医師105人のうち、9割の医師が患者負担だけでなく、医療経済学的観点から、BSの使用に前向きだったが、否定的な見解を持つ医師からは「品質に疑問」「メーカーの安全性情報の提供に不安」などの意見が寄せられた。
132施設の薬剤師からは、「積極的に採用」が69人(52.3%)で最も多く、採用に肯定的な薬剤師を合わせると64.4%に上った。BS採用に消極的な理由としては、「品質への疑問」「病院経営メリットが少ない」などが挙がった。
一般国民を対象にした調査では、認知度の低さも明らかとなった。BSの名称や内容に関する認知率は19.1%にとどまっていたほか、BSの使用意向があるかについて、43.3%が「分からない」としており、BS使用の意思決定に必要な情報を提供する医師、薬剤師の役割が「非常に重要」としている。
これらの結果を踏まえ、行政に対して、▽BSの開発・承認申請を効率的に進めるための指針・ガイドラインの充実▽製造設備等のインフラ整備(信頼できるバイオ医薬品製造にかかわるCMOの設立を含む)を支援▽バイオ医薬品の基盤技術・製造を担う人材育成の支援▽医療関係者(特に医師)および患者にBSを正確に理解してもらうための教育プログラムの作成、実施▽先行バイオ医薬品とBSの互換性と代替処方の考え方、承認要件の明確化――を提言。
製薬企業・アカデミアへの提言としては、▽医療関係者(特に医師)および患者に対する認知度向上に向けた情報発信▽製造設備等のインフラ整備(信頼できるバイオ医薬品製造にかかわるCMOの設立を含む)を行政の支援のもとに実施▽バイオ医薬品の基盤技術・製造を担う人材の育成を行政の支援のもとに実施(特にアカデミアは、人材の教育、供給に注力)――を挙げた。