自閉症など精神・神経疾患との関連が報告されるスパインの異常
理化学研究所は6月13日、運動をつかさどる小脳内の神経回路を正しく維持するために必要な分子メカニズムを発見したと発表した。この研究は、理研脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームの御子柴克彦チームリーダー、菅原健之研究員、久恒智博研究員らの研究チームによるもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America(PNAS)」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの脳では、数千億個の神経細胞がシナプスを介して互いに結合し、神経回路を形成している。神経細胞の樹状突起には、スパインという小さな突起が無数にあり、ここに他の神経細胞との連絡場所であるシナプスが形成される。スパインは生後の発達過程で活発に形成され、成熟後の神経細胞では比較的安定に存在し、機能的な神経回路を維持している。また近年、自閉症や精神発達障害、統合失調症など種々の精神・神経疾患において、スパインの形や数に異常が生じることが報告されており、疾患の病態とスパインとの関連が注目されていた。
CaMKIIβのリン酸化反応で、プルキンエ細胞のスパイン形態が制御
研究チームは、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼβサブユニット(CaMKIIβ)が、運動の学習・記憶を担う小脳の神経細胞のひとつであるプルキンエ細胞のスパインの形成と伸長を促すことを発見。また、このCaMKIIβのスパインに対する効果は、タンパク質リン酸化酵素のひとつであるプロテインキナーゼC(PKC)によるCaMKIIβのリン酸化により制御されていることがわかった。さらに、このPKCによるCaMKIIβのリン酸化反応が障害されると、成熟したプルキンエ細胞に過剰なスパインの形成と伸長が生じることを明らかにしたという。これらの結果は、PKCによるCaMKIIβのリン酸化反応により、プルキンエ細胞のスパインの形態が制御されており、これが成熟後の小脳神経回路を正常に維持するのに極めて重要な役割を果たしていることを示している。
今回の研究成果は、高次脳機能を支える構造的基盤であるスパインを制御する仕組みについて、新たな知見をもたらすものであり、精神・神経疾患の原因解明や治療法の確立につながる、と研究グループは述べている。
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