■DVO実施で廃棄減効果も
青森県内の主要医療機関における注射用抗癌剤の廃棄額を算出したところ、1年間で総額約3億8000万円に上ることが、弘前大学病院薬剤部の調査で明らかになった。抗癌剤の廃棄額を削減するため、単回バイアルの複数回使用(DVO)を当日限りで導入した効果をシミュレーションした結果、半年で約1億9000万円の薬剤費削減につながり、廃棄額も約8000万円が削減されることが推計され、日本におけるDVO実施の有効性が考えられた。この結果を国の医療費に当てはめると、廃棄額は342億円に上る推計が得られた。
同院では、高額な注射用抗癌剤の廃棄量が問題視されている中、青森県における廃棄の現状について調査を実施。それをもとに算出した廃棄量の削減に向けたシナリオを作成し、シミュレーションを行った。青森県の主要な医療機関11施設を対象に、昨年4~9月の半年間にわたって注射用抗癌剤の実施日、薬剤名、個人ごとの投与量を調べた。最小規格の薬価を内容量で割って1mg当たりの薬価を算出。その上で、廃棄量と薬価を乗じて廃棄額を算出した。
県内11施設の薬剤使用データ3万8054件をもとに、現在のバイアル、アンプル単位の保険請求ではなく、実際に患者に使用した投与量ベースで保険請求した場合のシミュレーションを行ったところ、通常の保険請求総額は約29億円、廃棄額総額は約1億9000万円となり、差し引き約27億円が投与量ベースの保険請求額と推計された。
このことから、県内の医療機関において6カ月間で約1億9000万円の注射用抗癌剤がムダに保険請求され、廃棄されていることが分かった。年間に換算すると約3億8000万円に上る。さらに、これを国の医療費に当てはめて推定すると、単純計算で廃棄額は約342億円になることが考えられた。調査を行った同院薬剤部の兵藤塁氏は「抗癌剤の廃棄問題は、薬剤師が医療費削減に介入できる重要なポイント」と指摘した。
その取り組みの一つとして、米国で実施されている単回バイアルを複数回使用するDVOを日本に導入した場合の試算を行った。米国のガイドラインでは、残薬の有効利用を認める基準として、安全キャビネットと同基準に相当するISO5の環境で6時間とされている。
そのため、日本で実施可能な条件として、閉鎖式接続器具を使い、安全キャビネットの中で調製して当日に限りDVOを行うことを想定。DVO実施による薬剤費と廃棄額をシミュレーションしたところ、保険請求総額は約27億円、廃棄額は約1億1000万円となった。現在のバイアル単位の保険請求総額は約29億円であることから、DVOを実施することにより、半年で約1億9000万円の薬剤費削減につながることが明らかになった。さらに廃棄額も約8000万円の削減につながることが分かった。
兵藤氏は、「日本でDVOを導入するには大きな制度改革が必要なため、実現には時間がかかる」と課題を指摘しながらも、「DVOは有効で、当日限りのDVOに限定することにより、日本の医療機関でも実施できるのではないか」としている。