医療機関ではなく、介護施設や自宅で亡くなる在宅死が増えている。昨年12月に「改正がん対策基本法」が成立し、第17条に「緩和ケアが診断の時から適切に提供されるようにすること」が追加され、「居宅において癌患者に対し医療を提供するための連携体制を確保すること」が明記された。昨年4月に緩和ケアに関する診療報酬制度も新設され、在宅での緩和ケアは充実される基盤が構築されるものの、病院から在宅療養への連携が十分でないという問題が立ちはだかっている。
信州大学病院信州がんセンター緩和部門の間宮敬子氏は、「緩和ケアチームがかかわる病院では、薬剤にかかる薬剤料が緩和ケア病棟入院料や包括支払い制度方式(DPC)病院に含まれるが、外来や在宅で使うと保険適応外になる」と紹介。静脈注射は保険適応でも皮下注はそうでない薬剤もある。処方医の立場としては、薬剤やその使用方法が保険適応外であったとしても「使わざるを得ない場面をたくさん経験している」という。
長野県の医師を対象に実施した緩和医療の適応外使用に関するアンケート調査結果では、「地域の医師、在宅医の保険適応外処方に対する問題意識は強く、症例によっては在宅に戻さなくてもよいと考えているのを知り、切実だと感じた。大学病院の医師は保険適応外処方に関して、在宅の医師やかかりつけ医のように苦労していないのかもしれない。勤務医と地域医の温度差を解消しないと緩和医療の均てん化につながらない」と問題提起した。
その上で、「大学病院や基幹病院の医師が在宅医が抱えている問題を理解し、病院から地域医への紹介をスムーズにできるよう工夫する必要性がある」と語った。
保険薬局薬剤師の立場としてアイエム薬局の飯田祥男氏は、在宅医療で緩和ケアに参画する薬剤師にとって、「患者情報が少ない」「かかわる人手が少ない」「保険で使える薬剤が少ない」「薬局から患者宅までの距離が遠い」「他職種との関係性が密でない」といった五つの壁が存在していると指摘する。
その中で「在宅で使える注射剤が少ない」という実態を挙げた。GE薬を含め4260種類ある注射剤のうち、緩和医療で使えるのは66系統に過ぎない。飯田氏は現場の視点から「実際に使えるのは18種類くらい」と使える薬剤の少なさを強調した。
一方、病院薬剤師の立場から京都府立医科大学病院の梅林祐子氏は、日本緩和医療学会のガイドラインに収載されている七つの鎮静剤全てが「保険適応外」であるなど、ガイドライン推奨薬が保険の範囲で使えない中でエビデンスを発信していく意義を強調した。第一選択薬のミダゾラムについては、「国内外で有効性のエビデンスが構築されつつあるが、リスクマネージャーである薬剤師の立場としては安全性の検証が大切だと思っている」と述べた。