PINK1とParkinが協働して作るリン酸化ユビキチン鎖
順天堂大学は6月2日、若年性遺伝性パーキンソン病の2つの原因遺伝子であるPINK1(ピンクワン)とParkin(パーキン)が協働して作るリン酸化ユビキチンの鎖が、パーキンソン病患者iPS細胞由来のドーパミン神経細胞と患者脳において異常な挙動を示すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科・神経学の服部信孝教授、パーキンソン病病態解明研究講座の今居譲先任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「uman Molecular Genetics」に5月25日付けで掲載されている。
画像はリリースより
ミトコンドリアは、細胞に必要なエネルギーの産生や脂質や鉄の代謝、細胞内のカルシウム濃度の調節などを行う細胞になくてはならない重要な細胞小器官だが、エネルギーを産生するときに活性酸素が発生し、損傷が起こる。PINK1はリン酸をタンパク質に付加(リン酸化)するキナーゼで、損傷ミトコンドリアを監視する役割を持つ。損傷ミトコンドリアが発生すると、PINK1はParkinが繋いだユビキチンの鎖にリン酸を付加することで損傷ミトコンドリアを除去する。このメカニズムは2014年に同研究グループがヒト培養細胞とパーキンソン病モデル動物明らかにしており、今回は実際のパーキンソン病患者の神経細胞において、このメカニズムの病態モデルを検証した。
Parkinのスイッチを操作する人工的な方法の開発進める
研究グループは、パーキンソン病患者脳と、患者由来iPS細胞から作製したドーパミン神経を用いて、リン酸化ユビキチン鎖の状態を調査。その結果、予想通りリン酸化ユビキチン鎖のシグナルが、 パーキンソン病で変化していることが明らかとなった。さらにドーパミン神経では、 他の神経に比べて、リン酸化ユビキチン鎖のシグナルが強いことを発見。これは、PINK1やParkinがとくにドーパミン神経で忙しく働いていることを示しており、PINK1やParkinの働きがドーパミン神経の生存にとくに重要であることを意味するという。また、この結果はPINK1やParkinに変異があると、若くしてドーパミン神経が変性しパーキンソン病になるという、臨床での観察と一致している。
PINK1遺伝子やParkin遺伝子の変異が引き金となる若年性パーキンソン病は、概ね40歳までに発症する一方、大部分のパーキンソン病は、遺伝的要因が不明で比較的高齢で発症し、孤発性パーキンソン病と呼ばれる。今回の研究では、一部の孤発性パーキンソン病脳でリン酸化ユビキチン鎖が観察されたことから、孤発性パーキンソン病でも損傷ミトコンドリアが増えている場合があると予想される。今後は、損傷ミトコンドリアを除去する実行因子であるParkinのスイッチを操作する人工的な方法を開発し、損傷ミトコンドリアの除去によるパーキンソン病の効果的な早期予防に向けたさらなる研究を進めるという。
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・順天堂大学 プレスリリース