■転記ミスなく薬局にメリット
旭川医科大学病院では、今年2月から患者の検査値などの情報を格納したQRコードを院外処方箋に印字し、薬局での適正使用、副作用の防止・早期発見に役立てている。大きなメリットは、1枚の処方箋に必要な情報が収まること。同じ「検査値付き処方箋」でも、処方内容の隣に切り離し可能な余白を設けて検査値を印字する様式では、患者が検査値部分を切り離してしまうことがあるが、1枚に収まっていれば薬局に必要な情報が届かないケースは減る。携帯電話などの端末で読み取れば、素早くデータを取り出せるため、調剤録に記入する手間が省略され、転記ミスがなくなるなどの利点もある。田崎嘉一薬剤部長は、「安全な処方監査や、的確な服薬指導につながるだけでなく、検査値の管理も容易に行える」と強調。今後、全国に普及し、「グラフで基準値との比較が表示されるアプリが開発されれば、薬局側や患者のメリットもより大きくなる」と話す。
近年、患者の検査値を見ながら用法・用量を変更する薬剤が増えており、処方箋に検査値を表示する取り組みは、全国の病院で広まりつつあるが、検査値に特化したQRコード化は、国内初の試みとみられる。
一般の検査値付き処方箋は、左半分に処方内容、右半分に検査値の一部を記載し、片側を切り離せるようにする“二つ折り”の様式が多いが、中には、検査値部分を切り離してしまう患者もいて、必要な情報が薬局に届かないケースが散見される。
検査値だけでなく、身長や体重などの情報も記載されており、薬剤師に提示するのをためらう患者が少なからずいるためだ。
ただ、検査値部分が切り離されてしまうと、患者情報をほとんど把握できないまま、処方監査、服薬指導を行うことになるため、京都大学病院などのように、処方箋をA5版からA4版に拡大した上で、処方箋の下部に検査値のデータを記載して1枚で収まるような工夫をしているところもある。
田崎氏らも、「切り離し不可にした方がメリットは大きい」と考え、A4版への拡大を試みたものの、処方箋のサイズ変更は「意外にハードルが高い」ことが判明。限られたスペースに検査値などの情報を盛り込むにはどうしたらいいか思案していたところ、当時、副薬剤部長だった粟屋敏雄氏(現市立旭川病院薬剤科長)が、QRコードに検査値情報を格納するアイデアを思いつき、1年半前から導入を進めてきた。
QRコードは、小スペースの印字で、大容量のデータを納めることができるほか、復元性があり、一部に破損・汚れがあっても読み取ることが可能。
旭川医大病院の処方箋に印字されているQRコードには、氏名、生年月日などの情報をはじめ、15項目の検査値を3履歴まで格納している。また、小さいながらもQRコードの横に検査値を記載している。
検査値付き処方箋を受けた薬局は、調剤録に検査値を書き写したり、コピーして貼り付けたりしているが、QRコードを端末で読み取って管理できれば大幅な負担軽減につながり、書き写しのミスもなくなる。
■アプリ開発に期待
今後、QRコードに端末をかざすだけで、基準値との比較がグラフで表示されるようなアプリが開発されれば、「より安全な処方監査、的確な服薬指導につながり、検査値の管理も容易になる。かかりつけ薬剤師・薬局として、患者の検査値が適切に管理できるようになるメリットは大きい」と強調する。
ただ、全国の病院にシステムが普及していかないと、アプリ開発のインセンティブは働きにくい。現在、粟屋氏の市立旭川病院が導入に向けた準備を進めているところだが、田崎氏は、「医療安全と薬局の負担軽減にも資することなので、オーダリングシステム更新などの機会に、他の病院にもQRコード付き処方箋を採用してもらうよう働きかけていきたい」と話す。