免疫疾患の遺伝的メカニズムの新しい解析手法を開発
理化学研究所は5月30日、免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログを作成し、免疫疾患の遺伝的メカニズムの新しい解析手法を開発したと発表した。この研究は、理研統合生命医科学研究センター統計解析研究チームの石垣和慶特別研究員ら共同研究チームによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に5月29日付けで掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの健康状態や免疫機能の一部は、DNA多型によって決まる。近年、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって免疫疾患の発症に関与するDNA多型(リスク多型)が多く同定されているが、その遺伝的メカニズムの解明は十分に行われていない。大半のリスク多型は、遺伝子発現量の調整異常を介して発症リスクを上げていると考えられている。また、その調整異常は特定の免疫細胞に特異的に認められると推定されている。そのため、リスク多型がどの免疫細胞で、どの遺伝子の発現量に影響しているのかを明らかにすることが、免疫疾患の遺伝的メカニズムの解明には重要だ。
花粉症・喘息・がんなど幅広い疾患に適応可能
研究チームはまず、105人の健常人から末梢血を回収し、特定の細胞を回収できるFACSを用いて、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、B細胞、NK細胞、単球の5種類の主要な免疫細胞に分けた。そして、各細胞種の遺伝子発現量を、次世代シーケンサーを用いたRNAシーケンスで定量し、DNA多型との関連を網羅的に解析し、免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログ「eQTLカタログ」を作成した。これまでの先行研究の多くは血液の白血球をまとめて解析するものだったが、今回はそれぞれの免疫細胞を分けて解析したことが特徴だという。
次に、eQTLカタログを応用して、免疫疾患の遺伝的メカニズムの全体像を評価する新規手法を開発。この手法は、リスク多型によって生じる遺伝子の発現調整異常に注目したもの。通常、多くのリスク多型は、単独では疾患発症に微々たる影響力しか持たないため、個々のリスク多型を独立に評価しても、免疫疾患の遺伝的メカニズムの全体像は理解できない。今回の手法では、複数のリスク多型の影響を総合的に評価し、ひとつのパスウェイの活性情報に集約して解釈することが可能だという。
近年、免疫システムは、がん・肥満など多くの疾患で重要な機能を担っていることがわかっている。そのため、今回の研究で得られた免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログや、カタログを生かした解析手法は、関節リウマチなどの自己免疫疾患に加えて、花粉症・喘息・がんといった幅広い疾患に適応可能だという。今後、遺伝的メカニズムに基づいた創薬標的の探索と治療法の開発への貢献が期待できる、と研究チームは述べている。
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