医療経済的な議論が必須な分子標的治療薬
東京大学は5月25日、ネフローゼ症候群の治療法として抗CD20モノクローナル抗体「リツキシマブ」を導入した場合の費用対効果を検討した結果、同剤の導入は従来の治療法と比べて医療経済性に優れている可能性があるという研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の田倉智之特任教授らの研究グループによるもの。この研究結果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
ネフローゼ症候群は、腎臓の機能に障害が生じることによって、むくみなどの症状がみられる難病。標準的な治療はステロイド製剤および免疫抑制剤による治療だ。この治療法によって完全に回復する患者がいる一方で、再発を繰り返す患者(頻回再発型ネフローゼ症候群)や、ステロイドを治療の初期の段階から減らすことができない患者(ステロイド依存性ネフローゼ症候群)が少なからず存在し、ステロイド製剤を長期にわたって使用することによる副作用が問題となっている。
難治性ステロイド症候群に対しては、既にリツキシマブの有効性が報告されてきていたが、分子標的治療薬は高額であり、その普及には医療経済的な議論が避けられない。
医療費は投与前30万円/月から投与後13万円/月へ減少
今回、研究グループはネフローゼ症候群の患者にリツキシマブを投与し、導入前後2年間におけるネフローゼの再発回数および総医療費を比較。その結果、再発回数は投与前4.30±2.76回から投与後0.27±0.52回へ、医療費は投与前30万2,238(円/月)から投与後13万2,352(円/月)へ減少することが認められた。この減少は、主に入院医療費の減少によるものだった。また、尿タンパクの減少と医療費の低下に相関関係があることも明らかになったという。これらの結果から、効果や費用の両面において、同剤の有用性が示されたとしている。
分子標的治療薬をはじめとする新薬は、従来の治療薬と比較して高額であることが多く、医療財政の圧迫が問題となっている。今回の研究での知見は、新薬が患者の予後の改善のみならず、社会保障負担の軽減に貢献する可能性を示すものだ。研究グループは、「今後はこのような成果も踏まえながら、難病の治療を支える医療制度の意義を論じることが望まれます」と述べている。
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