CPUの10~100倍の性能を有するGPUを用いて
筑波大学は5月25日、世界で初めて、コンピュータ上でMRI撮像プロセスを忠実に再現する世界最高速の実用的MRIシミュレータの開発に成功したと発表した。この研究は、同大数理物質系の巨瀬勝美教授と、株式会社エム・アール・テクノロジーの研究グループによるもの。研究の成果は、「Journal of Magnetic Resonance」に5月20日付でオンライン公開されている。
画像はリリースより
MRI装置の世界市場は、その85%を欧米の三大メーカーが占めており、日本メーカー2社のシェアは、合わせても15%にも満たないと言われている。特に、MRIのソフトウェアとも言うべき撮像手法「パルシーケンス」の開発においては、世界と肩を並べているとは言い難い状況にある。
現状を打開するためには、パルスシーケンスの開発効率を飛躍的に向上させる必要がある。開発のボトルネックになっているMRI装置のマシンタイムの問題と、実験効率の問題を同時に解決するMRIシミュレータは極めて重要な技術であり、研究グループは2014年より、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)を用いた高速なMRIシミュレータの開発を行っていた。
GPUは、画像表示用に使われていた演算装置の高速性を活かして、一般的な科学技術計算にも使えるようにしたユニット。計算の種類にも依存するが、PCに使用されるCPU(演算装置)の10~100倍の性能を有する。
従来比約70倍、世界最高速の実効性能を達成
今回は、nVIDIA社のGPUである「GTX1080」を2台用いて、MRIシミュレータ「BlochSolver」を開発。特徴は、撮像に使用するパルスシーケンスがそのまま動作する設計にしたことと、世界最高速の実効性能(7TFLOPS:従来比約70倍)を達成したことだ。また、この高速性能をベースに、シミュレーションの精度を高めるための柔軟なサブボクセル(小画素)設定機能を導入し、撮像結果の正確な再現を可能にしたという。
現在は、エム・アール・テクノロジー社製のMRIパルスシーケンスのみに対応しているが、今後は他社製のパルスシーケンスなどにも対応することで、より多くの装置で使用されることを目指すという。MRIシミュレータは、理想的なMRI装置をコンピュータ上に構築できることから、今後、MRI 開発における中心的な役割を果たしていくことが期待される、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース