何度も刺激を受けることや長期間培養で疲弊状態に陥るT細胞
慶應義塾大学は5月23日、疲弊した免疫細胞(T細胞)を若返らせ再活性化する技術を開発し、より効果的ながん治療へ応用することに成功したと発表した。この研究は、同大学医学部の吉村昭彦教授らと、武田薬品工業株式会社のグループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Nature Communications」のオンライン速報版に5月22日付けで公開されている。
画像はリリースより
細胞移入療法は、がん患者の腫瘍組織などから分離したがんに特異的なT細胞を試験管内で大量に培養し、患者へ再び戻す療法だが、がん組織に集積しているT細胞の多くは何度も刺激を受けることで疲弊状態に陥る。また、長期間培養することでも疲弊状態になる。このような疲弊状態に陥ったT細胞を患者体内に戻しても、がん細胞を攻撃する力が弱く、十分な治療効果を得ることが出来ないという問題を抱えている。
幹細胞とメモリー細胞の性質をもつT細胞を「iTSCM」と命名
研究グループは、効果的ながん特異的T細胞を用いた、細胞移入療法の確立をめざして、一旦活性化され、疲弊したT細胞を未感作に近い状態(若返った状態)に戻す方法を探索。その結果、活性化したT細胞をストローマ細胞であるOP9-DL1と共培養すると、活性化T細胞にNotchと呼ばれる特殊な刺激が入り、より未感作状態に近いT細胞が生まれることが判明した。この未感作状態に近いT細胞は、疲弊状態を示す免疫チェックポイント分子であるPD1とCTLA4の発現がほぼ消滅し、若返った状態だったという。
この細胞は、幹細胞とメモリー(記憶)細胞の両方の性質を持ち、再度の刺激によって急速に増殖し、かつ長期生存が可能だった。また、ヒトT細胞からも作成することができ、強い抗腫瘍効果を発揮することも確認された。同研究グループは、この培養法で得られるT細胞を「誘導性ステムセルメモリーT細胞」(iTSCM)と名付けたという。
今回の成果は、遺伝子導入技術を用いずに、がんに特異的に反応するT細胞を増やすことを可能にするもので、早期にがん治療へ応用できることが期待される。また、免疫細胞に限らず一般的な細胞の「若返り」の方法の開発とメカニズムの解明につながることも期待できる、と同研究グループは述べている。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース