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がん抑制遺伝子産物「p53」による代謝制御メカニズムを解明-東大

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2017年05月24日 PM12:45

ASS1の発現制御を介して、アルギニンの生合成経路を制御

東京大学は5月20日、がん抑制遺伝子産物「p53」がアルギニノコハク酸合成酵素「」の発現制御を介して、アルギニンの生合成経路を制御していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科の松田浩一教授と宮本崇史特任助教のグループが、がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの植田幸嗣プロジェクトリーダーと共同で行ったもの。研究成果は、「Science Advances」に5月19日付けで掲載されている。


画像はリリースより

転写因子p53は、がんで最も高頻度に変異が認められるがん抑制遺伝子産物として知られている。p53によって制御されている細胞機能は多岐にわたるが、近年、特にp53による代謝制御が、がんの発生を抑制するうえで重要な役割を担っていることが明らかになってきた。しかし、p53による代謝制御メカニズムの全容は明らかにされていない。

研究グループは、ヒト大腸がん由来の細胞株を用いて、トランスクリプトーム解析(mRNAがどのような発現状況にあるかを網羅的に知るための解析)とプロテオーム解析(タンパク質がどのような発現状況にあるかを網羅的に知るための解析)を行い、p53によって発現が制御されている代謝関連遺伝子の網羅的探索を試みた。その結果、p53依存的に発現が誘導されるアルギニノコハク酸合成酵素ASS1を同定することに成功したという。

多くのがんで過剰な活性化が認められるAktの活性を抑制

ASS1は、シトルリンとアスパラギン酸からアルギニノコハク酸を合成する酵素。アルギニノコハク酸は、アルギニノコハク酸リアーゼASLによって速やかにアルギニンへと代謝される。研究グループは、p53によるASS1の発現誘導が、このアルギニン生合成経路を活性化することも実験的に確認したという。p53はこれまでに、プロリン、グルタミン、グルタミン酸といったアミノ酸代謝の制御に関与していることが報告されている。今回、これらに加えて、アルギニンの生合成もp53によって制御されていることが明らかになった。

次に研究グループは、p53がASS1を介してアルギニン代謝を制御する生理的意義についての検討を実施。その結果、p53によるASS1の発現誘導は、多くのがんで過剰な活性化が認められる、セリン/スレオニンキナーゼAktの活性レベルを抑制するために重要であることがわかった。さらに、ASS1遺伝子の欠損によって細胞内からのアルギニン供給能が低下すると、Aktが活性化されやすくなることが判明。Aktの活性レベルはアルギニン欠乏条件下で高くなることから、p53はASS1を介してアルギニン生合成経路を活性化し、アルギニンを供給することで、Aktの活性化を抑制していると考えられる。また、p53-ASS1経路によるAktの活性抑制システムが機能しない場合、抗がん剤のひとつであるアドリアマイシンで細胞を処理すると、アポトーシスによる細胞死が著しく誘導されることがわかったという。Aktは状況に応じて細胞の生死を調節する要のタンパク質。p53-ASS1経路によるAktの活性制御は、Aktが細胞を生存させるかどうかを決定するプロセスで、重要な役割を担っていることが示された。

p53はこれまでに、がん抑制遺伝子産物のPTENやPHLDA3の発現誘導を介してAktの活性を抑制することが報告されており、今回の研究結果と合わせ、p53は複数のパスウェイを介して、非常に厳密にAktの活性制御を行っていることが判明した。今後、p53がASS1などの代謝関連遺伝子の発現誘導を介してどのような栄養情報を創り出しているのか、こうした栄養情報がどういったプロセスによって細胞の運命を決定していくのかを包括的に理解していくことで、より効果的ながん治療法の開発につながる、と研究グループは述べている。

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