有効な治療法の開発が求められる劇症肝炎と慢性腎臓病
東北大学は5月18日、劇症肝炎や慢性腎臓病の進行を抑える効果がある新規化合物 「Mitochonic acid35」(MA-35)を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科および医工学研究科病態液性制御学分野の阿部高明教授、元医学系研究科大学院生(現徳島市川島病院)の島久登氏らが、岡山理科大学の林謙一郎教授、広島大学病院の正木崇生教授らの研究グループとともに行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」(電子版)に掲載される予定。
画像はリリースより
劇症肝炎は、救命率の低い予後不良な疾患。国内では年間400人ほどが報告されるが、現在のところ肝移植以外に確立された内科的治療法がなく、有効な治療法の開発が急務だ。また、慢性腎臓病進行による透析導入患者数は増加の一途をたどっており、腎臓線維化は慢性腎臓病進行時の共通の最終病像とされている。腎臓線維化は腎機能予後と強く相関しており、慢性腎臓病の進行抑制には線維化抑制が急務だが、厳密に効果があると確定された治療薬はないのが現状だ。
TNF-αを抑制して肝炎を軽減、TGF-β1を阻害して線維化を軽減
今回、研究グループは、慢性腎臓病による尿毒症患者の血中の腎不全物質を解析する過程で、腎臓病患者の血液中にATPやエリスロポエチン産生亢進作用があるインドール化合物が含まれていることを発見。さらに、その化合物の誘導体ライブラリーをスクリーニングし、TNF-αとTGF-β1を阻害する作用のある新規化合物としてMA-35を発見した。
TNF-αは炎症促進を担う中心的なサイトカインであり、TGF-β1は線維化進行を担う中心的な増殖因子だ。実際、MA-35は劇症肝炎動物モデルにおいて TNF-αを強力に抑制し、肝炎を軽減。さらに、腎臓線維化動物モデルにおいてはTGF-β1を強力に阻害し、線維化を軽減したという。
今回の成果から、MA-35は現在治療法のない劇症肝炎や慢性腎臓病の新しい治療薬となる可能性が示唆された。また、TNF-αシグナルやTGF-β1シグナルは関節リウマチ、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、肝硬変、肺線維症などの疾患にもかかわっており、MA-35はこれらの疾患に対しても治療薬となる可能性がある。なお、MA-35は既に国内出願(特願2014-65688)を完了している。
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