ヘルパーT細胞、キラーT細胞、NKT細胞、制御性T細胞への分化制御
理化学研究所は5月18日、マウスを用いて、ゲノムオーガナイザーとして知られるSATB1タンパク質が、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、制御性T細胞などへの分化制御において重要な働きをしていることを発見したと発表した。この研究は、理研統合生命医科学研究センター免疫転写制御研究グループの谷内一郎グループディレクター、角川清和研究員らの研究チームによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Cell Reports」の5月9日号に掲載されている。
画像はリリースより
T細胞には、その大部分を占めるヘルパーT細胞とキラーT細胞のほかにNKT細胞や制御性T細胞がある。これらのT細胞は、骨髄由来の前駆細胞が胸腺で分化成熟することによって生まれる。また、ヘルパーT細胞とキラーT細胞は、細胞表面に発現する2つのタンパク質「CD4」と「CD8」の発現パターンにより特徴づけられる。
研究チームは、これまでにヘルパーT細胞はCD4だけを発現(CD4+CD8-)し、キラーT細胞はCD8だけを発現(CD4-CD8+)することを見出していた。また、これらの発現パターンを確立・維持するには転写因子として、ヘルパーT細胞では転写因子ThPOK、キラーT細胞ではRunx3の発現が必須であることを示していた。しかし、ThPOKやRunx3の発現の調節メカニズムは不明であった。
SATB1がThPOKの発現やFoxp3のスイッチを制御
研究チームはまず、ThPOKの発現に関与する分子を同定するため、遺伝子発現のスイッチにあたる部分のDNA断片を用いて、スイッチのオン・オフに関わる転写因子を詳しく調査。その結果、DNA断片に結合しているタンパク質「SATB1」がThPOKの転写制御に重要な働きをしている可能性が示されたという。
そこで、SATB1をT細胞でのみ働かないマウスを作製し、その胸腺におけるT細胞分化を調べた結果、SATB1はThPOKの発現を制御するだけでなく、Runx3、CD4、CD8、さらには制御性T細胞の分化に必須な転写因子「Foxp3」のスイッチを制御していることが判明。SATB1のないマウスでは、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞の分化に部分的に異常をきたしたという。さらに、ChIP-seqによる解析からSATB1はこれらの遺伝子の制御領域に結合していることを確認。また、SATB1は、NKT細胞の分化にも重要であることが判明したという。
今回、研究チームは転写因子SATB1が、未熟なT細胞の前駆細胞がヘルパーT細胞、キラーT細胞、NKT細胞さらには制御性T細胞へ分化成熟する過程で重要な働きをしていることを示した。しかし、この分化過程は複数の転写因子が時間的、空間的に複雑に制御し合うことにより成り立っており、SATB1だけでは全てを説明することはできない。今後は、ThPOK、Runx3または制御性T細胞に必須のFoxp3などとの相互作用を解析し、未知の制御因子を同定することで、複雑な制御機構を解明していくことが重要としている。今回、研究チームは転写因子SATB1が、未熟なT細胞の前駆細胞がヘルパーT細胞、キラーT細胞、NKT細胞さらには制御性T細胞へ分化成熟する過程で重要な働きをしていることを示した。しかし、この分化過程は複数の転写因子が時間的、空間的に複雑に制御し合うことにより成り立っており、SATB1だけでは全てを説明することはできない。今後は、ThPOK、Runx3または制御性T細胞に必須のFoxp3などとの相互作用を解析し、未知の制御因子を同定することで、複雑な制御機構を解明していくことが重要としている。
また、研究チームは、T細胞の分化を制御する転写制御機構の解明が、人為的にT細胞分化を制御する方法の開発につながると指摘。さらに、免疫応答を制御する方法の開発を通じて、免疫疾患の新たな治療法の開発につながることが期待できる、と述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース