5年生存率5%程度の膵臓がん
九州大学は5月16日、膵臓がん幹細胞の機能を阻害する化合物を発見したと発表した。これは、緑茶カテキンの一種である(−)-Epigallocatechin-3-O-gallate(EGCG)の化合物「No.19」というもの。研究は、同大大学院農学研究院の立花宏文主幹教授らの研究グループが、東京工業大学田中浩士准教授の研究グループと共同で行った。研究成果は、国際学術雑誌「Scientific Reports」に5月15日付けでオンライン掲載されている。
画像はリリースより
膵臓がんは治療が大変困難ながんとして知られており、5年生存率はわずか5%程度と非常に低いのが現状だ。がんの予後不良の原因として転移と再発が挙げられるが、それには、がん幹細胞が重要な役割を担っていると考えられている。がん幹細胞は、抗がん剤に強い耐性を持つ。そのため、既存の治療薬ではこのがん幹細胞が残存してしまい、これが増殖・分化することで再発が起こると考えられている。また、がん幹細胞は転移にも関わると言われている。このがん幹細胞を有効かつ安全に阻害できる治療法は、いまだ確立されていない。
原発巣の腫瘍成長を劇的に抑制、膵臓がんの肝臓転移も抑制
研究グループは、先行研究で、膵臓がんのがん幹細胞性の維持に重要な分子としてFOXO3を同定し、cGMPがFOXO3の発現を低下させることでがん幹細胞機能を阻害することを明らかにしていた。また、EGCGが、がん細胞表面に高発現する膜タンパク質である67-kDa laminin receptor(67LR)を活性化してがん細胞にcGMP産生を誘導することを報告していた。そこで、EGCGとcGMPを分解する酵素として知られるPDE3阻害剤を膵臓がん細胞に作用させたところ、がん幹細胞機能の指標であるスフェロイド形成能が抑制されたという。
EGCGとPDE3阻害剤の併用効果が生体内でも発揮されるか確認するために、膵臓がんを移植したマウスにEGCGとPDE3阻害剤を投与した。その結果、原発巣の腫瘍成長が劇的に抑制された。その作用は、現在膵臓がんの治療薬として用いられているゲムシタビンよりも強力であることが示唆されたという。さらに、転移に対する効果を検討したところ、EGCGとPDE3阻害剤の併用は、膵臓がんの肝臓への転移も抑制することも明らかになった。
また、EGCG誘導体の中からスフェロイド形成能阻害活性に基づくスクリーニングを行った。その結果、EGCGの5、7および4’位の水酸基がメチル化された化合物「No.19」が強力な作用を示した。また、膵臓がん幹細胞を移植したマウスにNo.19を投与したところ、EGCGとPDE3阻害剤の併用と同等以上にマウスの生存期間延長作用が認められたという。
今回の研究により、67LRの活性化因子であるEGCGの作用増強が膵臓がん幹細胞機能の阻害に有効である可能性が示された。67LRの強力なアゴニスト(作動薬)は膵臓がんに対する新たな治療薬となることが期待される、と研究グループは述べている。
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