■がん薬剤学会で報告
来年夏ごろに予定されている「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」の改訂では、調製時だけでなく投与時についても、抗癌剤の漏出や気化流出を防ぐ閉鎖式薬物移送システム(CSTD)の必要性が明記される見通しだ。蓄積されたエビデンスを反映し、近年、米国薬局方に「使用しなければならない」と記載されたという。14日に枚方市で開かれた日本がん薬剤学会学術大会のシンポジウムで、同GLの評価委員を務める中山季昭氏(埼玉県立小児医療センター薬剤部)が解説した。
同GLは、日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床腫瘍薬学会が共同で2015年に発刊したもの。抗癌剤投与時のCSTD使用は特に看護師からのニーズが強い。現行GLには推奨の記載はされていないが、改訂GLには「おそらく必要性が明記される」とした。
その背景について、中山氏は「当時とは比べものにならないくらいエビデンスが蓄積され、米国薬局方にも記載されるようになった。『調製時にはCSTDを使用すべき、投与時には使用しなければならない』と、調製時よりも強い推奨で記載されている」と説明した。
一方、調製時の曝露対策について中山氏は、国際がん薬剤学会(ISOPP)がCSTDとは認定していない、フィルター式閉鎖式接続器具を「エビデンス次第では使用可能、と修正される可能性がある」と指摘した。現行GLはCSTDの使用を推奨している。フィルター式閉鎖式接続器具は抗癌剤の気化流出を完全に防ぐことはできないが、流出する量は「海外の基準に照らし合わせるとほぼ目標レベル」と述べ、安全性に大きな問題があるわけではないとした。
一方、中西弘和氏(同志社女子大学薬学部)は、経済産業省の研究費を活用し、近畿大学や医療機器メーカーなどと共同で開発した安全キャビネットの概要を紹介した。大阪ガスケミカルが確立した、強い吸着力を持つ抗癌剤フィルターを排気側と循環側に使用することで、30%外排気型ながら、安全キャビネット内や排気の抗癌剤の流出を低く抑えられる。輸液バッグをオゾン水で洗浄する装置も備えているという。
中西氏は「安全キャビネットは100%外排気型が推奨されるが、病院の中央配管に排気したところ、強風の影響を受けて院内の図書館の上から抗癌剤が検出された事例があったと聞いた。独立配管が理想だが、費用が高くなり、構造的に不可能な場合もある。30%排気型なら、中央配管を使っても抗癌剤が他に漏れにくいことが分かってきた」と開発の背景を解説した。
濱宏仁氏(神戸市立医療センター西市民病院薬剤部)は、バイアル表面が抗癌剤で汚染されていることを意識するよう呼びかけた。
汚染の実態を示した濱氏らの報告を受けて、バイアルをフィルムや樹脂で被覆する曝露防止対策品が登場しているが、未対策品も残っている。対策品も、完全に抗癌剤が除去されているわけではないという。
濱氏は、洗浄用機械がない病院でも実践できる方法として、次亜塩素酸を薄めた水でバイアルを約5分間放置後、掛け流し方式で流水洗浄する手段を紹介した。
「バイアル洗浄は有効な手段の一つだが、その手段をとれないのであれば、少なくとも抗癌剤のバイアルを取り扱う時には手袋を使ってほしい。ただ、その場合、手袋をつけたままあちこち触ってはいけない。正しい手袋の使い方をしなければ意味がない」などと注意を促した。