組成が不明なものを一切含まない培養系で骨様組織を作製
東京大学は5月15日、薬剤のみを誘導剤として用い、組成が不明なものを一切含まない培養系で、マウス多能性幹細胞から三次元的な骨様組織を作製する方法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター臨床医工学部門の大庭伸介准教授と鄭雄一教授の研究グループによるもの。研究内容は、米国科学振興協会(AAAS)のオンライン科学雑誌「Science Advances」に5月12日付けで発表されている。
画像はリリースより
ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞から種々の細胞を作製し、培養皿上で三次元的に組織様構造体を作ることは、再生医療のみならず、組織形成過程の理解や治療用薬剤の開発に貢献すると考えられる。作製にあたっては、安全性やコストの観点から、従来から用いられてきたウシ胎仔血清のように組成が不明なものや、遺伝子導入、組換えタンパク質を使用せずに、目的とする細胞を三次元的に誘導できることが理想的だ。この観点から、血清・遺伝子導入・組換えタンパク質の代わりに低分子化合物を用いて幹細胞を維持、目的とする細胞への分化や増殖を制御する方法が注目を集めている。
生体内の臓器を模倣した三次元組織を試験管内で作製できる可能性
研究グループは2014年に、組成が不明なものを用いることなく、4種類の薬剤のみを誘導因子として用いることにより、多能性幹細胞から中胚葉を経由して効率的に骨芽細胞を誘導する方法を開発している。今回の研究では、この誘導方法を、アテロコラーゲンスポンジを担体として用いた三次元培養系に応用することで、マウス多能性幹細胞から三次元的に骨様組織を作製することに成功したという。
マウスES細胞・マウスiPS細胞の多能状態は、MEK阻害剤(PD0325901)・GSK3阻害剤(CHIR99021)を用いた培養法(2i培養法)により、無血清・無フィーダーで維持できることが報告されている。研究グループは、アテロコラーゲンスポンジ担体を用いた三次元培養系においても、上記の二つの阻害剤(2i)を用いることでマウスES細胞を維持できることを確認。また、三次元培養系では2iを除去してもマウスES細胞の多能性を維持できること、このマウスES細胞を適切な低分子化合物の組み合わせで処理すると、三胚葉それぞれに誘導できることが確認されたという。
次に、三次元培養系によって、マウスES細胞・iPS細胞から目的とする細胞の最終分化を誘導できるかを検討。研究グループが以前報告した、骨芽細胞を誘導する4種類の薬剤を三次元培養系に添加すると、中胚葉を介して骨芽細胞が形成され、骨組織の重要な特徴である基質の石灰化が誘導されたという。
また、三次元培養系では、マウスES細胞から骨芽細胞のみならず骨細胞も誘導されることがわかった。マウスES細胞から骨細胞を誘導したのちに、破骨細胞の前駆細胞を担体中に加えると、担体内で破骨細胞が形成されたという。このことは、三次元培養系によりマウスES細胞から誘導された骨芽細胞・骨細胞が、生体におけるものと同様に破骨細胞形成誘導能を有し、機能的であることを示唆している。
この研究で開発した、薬剤のみを用いてマウス多能性幹細胞から骨芽細胞・骨細胞を含む骨様組織を三次元的に作製する手法は、生体内の臓器を模倣した三次元組織を試験管内で効率的に作製するための基盤技術のひとつとなると考えられる。特に、骨芽細胞・骨細胞・破骨細胞という骨の形成と維持を制御する細胞が三次元的に機能する骨様組織を、多能性幹細胞を用いて培養皿上・試験管内で作製できる可能性を提示するものだ。これにより、骨粗鬆症をはじめとした種々の骨疾患の治療薬開発や骨再生医療のみならず、骨組織に生じる疾患の理解や、骨組織の形成と維持のメカニズムの理解に貢献することが期待されると研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学 プレスリリース