原発性滲出性リンパ腫の発症メカニズムを解明
熊本大学は5月11日、エイズ患者で発生する原発性滲出性リンパ腫では原因遺伝子を解明し、既存薬が治療に有効である可能性があると発表した。この研究は、同大学エイズ学研究センター岡田プロジェクト研究室のグループによるもの。研究の成果は、国際科学雑誌「Oncogene」オンライン版に5月8に付けで掲載されている。
画像はリリースより
現在、HIV感染者の3人に1人は悪性腫瘍で亡くなる。特に、10人に1人が血液のがんである悪性リンパ腫で亡くなることが大きな問題となっている。エイズで発生するリンパ腫は非常に悪性で、いくつかのタイプに分けられるが、なかでも最も予後が悪いタイプに分類される原発性滲出性リンパ腫の発症するメカニズムは明らかになっておらず、有効な治療法も見つかっていなかった。
骨髄異形成症候群の治療薬「アザシチジン」が有効か
研究グループは、原発性滲出性リンパ腫では、血液細胞の分化に重要とされる遺伝情報転写因子「PU.1」の発現が低下していることに着目。その結果、PU.1の発現を調節する領域がメチル化されると、その発現が低下することが判明。PU.1の発現を人為的に回復させると、細胞死に関わるインターフェロン刺激遺伝子が活性化され、リンパ腫細胞に細胞死が誘導されたという。
また、原発性滲出性リンパ腫ではカポジ肉腫関連ウイルスというがんウイルスが潜伏感染しているが、PU.1は抗ウイルス作用に影響する「IRF7遺伝子」を上昇させることで、ウイルス粒子の産生に必須であるORF57遺伝子を抑制していることを発見。さらに、脱メチル化剤のアザシチジンを投与することにより、PU.1の発現が回復し、リンパ腫細胞が細胞死することを発見したという。
今回の研究成果から、PU.1は重要な治療標的分子になりうると考えられる。アザシチジンは、すでに骨髄異形成症候群といった血液がんで臨床応用されていることから、アザシチジンやアザシチジンと同様の作用機序を持つ薬剤による治療が、原発性滲出性リンパ腫の分子標的薬として有効であることが期待される、と研究グループは述べている。
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