マスト細胞から産生される脂質メディエーター「PGD2」
東京大学は4月28日、マスト細胞から産生されるプロスタグランジンD2(PGD2)が、血管透過性の急激な上昇を抑えることで、過度なアナフィラキシーを抑える働きを持つことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授と中村達朗特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」オンライン版に4月27日付けで掲載されている。
画像はリリースより
食物アレルギーやハチに刺された時に起こるアナフィラキシーは、免疫細胞のひとつであるマスト細胞が活性化して、ヒスタミンやロイコトリエンといった炎症物質を大量に放出することで起こる。その症状は、蕁麻疹や呼吸器症状の他、血管の透過性の上昇を伴う血圧や体温の低下、意識の喪失などが挙げられ、重篤な場合、死亡するケースもある。このアナフィラキシー反応の主役となるマスト細胞は、ヒスタミンやロイコトリエンと共に、PGD2という脂質メディエーターを大量に産生することがわかっているが、この物質の生理活性についてはわかっていなかった。
炎症の促進物質と抑制物質を同時に産生するマスト細胞
研究グループは、マスト細胞を活性化させるcompound48/80という薬剤をマウスに投与、抗原-抗体反応を起こした。その結果、ヒスタミンが産生され、皮膚の血管透過性の上昇と共に、血圧や体温の低下が引き起こされることを確認。また、PGD2合成酵素(H-PGDS)を全身で欠損させたマウスでは、ヒスタミンの産生量に変化は無かったが、これらのアナフィラキシー症状が劇的に悪化したという。
また、免疫染色によりマスト細胞がH-PGDSを強く発現していることが確認されたため、マスト細胞特異的にH-PGDSを欠損させたマウスを作製。その結果、このマウスでも、compound48/80投与によるアナフィラキシー症状が悪化することが確認されたという。さらにPGD2受容体(DP)の遺伝子欠損マウスを作製し、compound48/80によるアナフィラキシー反応を観察したところ、野生型のマウスと比較して症状の悪化が観察された。一方、薬物によりDP受容体を刺激すると、血管の透過性が強く抑えられ、アナフィラキシー反応が抑えられることがわかった。
今回の研究成果は、アナフィラキシーの反応の一序を明らかにし、制御する方法を提案するものであり、将来の治療応用が期待される。また、マスト細胞が、ヒスタミンなどの炎症促進物質とともに、過度な反応を抑制する物質も同時に産生していることが明らかになった。マスト細胞の存在意義や、生体の恒常性(ホメオスタシス)維持機構を理解する上でも重要な発見である、と研究グループは述べている。
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