不明だった膵星細胞の活性化メカニズム
九州大学は5月9日、膵がん細胞の転移、浸潤に影響を与えている膵星細胞の活性化にオートファジーが関与している事を発見し、膵星細胞のオートファジーを抑制することが、新たな膵がん治療法となる可能性を見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の中村雅史教授、九州大学病院の仲田興平助教、大学院の遠藤翔氏らの研究グループによるもの。研究成果は「Gastroenterology」5月号に掲載されている。
画像はリリースより
膵がんの5年生存率は9.2%で、胃がんの74.5%や大腸がんの76.3%と比べ、非常に予後が不良であり、その改善は社会的急務として求められている。予後が不良な理由として、早い段階から周りの組織に浸潤や転移をすることが挙げられており、発見時に手術適応とならない症例の割合や切除後の再発率が他のがん患者に比べて高いのが現状だ。
膵がんにおいて、がん細胞の転移、浸潤に重要な役割を担っているのが膵星細胞と呼ばれる線維芽細胞。膵星細胞は、がん周囲の組織では活性化状態となり、がん細胞の転移、浸潤を促進するため、膵星細胞の活性化を抑制する事が膵がんの予後改善に役立つと考えられてきたが、膵星細胞の活性化メカニズムは不明だった。
オートファジー抑制効果が認められる既存薬も
そこで研究グループは、膵星細胞の活性化メカニズムとしてオートファジーに着目。膵星細胞に対してオートファジー関連遺伝子であるAtg7やAtg5遺伝子の発現を抑制したところ、膵星細胞の活性化が抑制され、さらに、膵星細胞から分泌されるInerleukin-6(IL-6)やコラーゲンの産生が抑制されたという。膵がん細胞株の浸潤能は、膵星細胞と共に培養することで亢進するが、今回、Atg7を抑制した膵星細胞と共培養を行うと、Atg7を抑制していない膵星細胞との共培養した場合に比べて膵がん細胞の浸潤が抑制されたという。
また、膵星細胞と膵がん細胞株をマウスの膵に共移植をすると、肝転移や腹膜播種が見られるが、Atg7を抑制した膵星細胞を共移植すると、Atg7を抑制していない膵星細胞を共移植した場合に比べて膵がん細胞の肝転移や腹膜播種が抑制されたという。これらの結果は、オートファジー抑制剤であるクロロキン(CQ)を投与した場合にも同じ結果が確認され、クロロキンを投与したマウスではクロロキン非投与マウスに比べて肝転移や腹膜播種が抑制される事が確認されている。この結果は膵星細胞のオートファジーを抑制することにより、膵がんの浸潤、転移が抑制される可能性を示唆しており、今後、オートファジー抑制剤が新たな膵がん治療薬開発の鍵となる可能性が考えられるという。
既存の薬剤の中には、オートファジー抑制効果が認められるものもある。研究グループは、これらの薬剤が膵がんの治療薬として新たな可能性が検討されると共に、新たなオートファジー抑制剤の開発が進むことで、新規膵がん治療薬が開発されることが期待される、と述べている。
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・九州大学 プレスリリース