脂肪酸バランスの変化に重要な役割を担う脂肪酸伸長酵素「Elovl6」
筑波大学は5月2日、肥満にともなう糖尿病の発症に脂肪酸伸長酵素「Elovl6」を介した脂肪酸バランスの変化が関与していることを発見したと発表した。Elovl 6を阻害することで脂肪酸バランスを改善し、糖尿病の発症を抑制できることを明らかにしたという。この研究は、同大学医学医療系の島野仁教授、松坂賢准教授らの研究グループによるもの。同研究成果は、米科学誌「Diabetes」オンライン速報版に公開されている。
画像はリリースより
糖尿病の大部分を占める2型糖尿病の発症と進展には、肥満などによるインスリン抵抗性と、それに対する膵臓のβ細胞の代償性インスリン分泌の破綻(膵β細胞機能不全)が関与すると考えられている。さらに、2型糖尿病では膵β細胞量が減少することが報告されているが、その病態や発症機序は未だ不明な点が多い。
肥満にともなう脂肪酸代謝の異常や、臓器における脂肪酸の過剰蓄積が糖尿病を引き起こすことは「脂肪毒性」という概念として提唱されているが、脂肪毒性における脂肪酸の質(種類や組成)の意義は十分に解明されていない。研究グループはこれまでに、過栄養が生活習慣病を引き起こすメカニズムを、脂肪酸合成系に着目して研究。パルミチン酸(C16:0)からステアリン酸(C18:0)への伸長を触媒する酵素Elovl6が過栄養状態で活性化することや、Elovl6を欠損させたマウスでは脂肪酸の組成が変化し、肥満や脂肪肝のままでもインスリン抵抗性を発症しにくいことが示されていた。しかし、Elovl6の阻害が2型糖尿病の発症を抑制するかどうかについては明らかにされていなかった。
Elovl6活性の阻害が糖尿病の予防・治療標的に
今回の研究では、肥満・2型糖尿病モデルマウス(db/dbマウス)のElovl6を欠損させると、肥満には影響されずに高血糖と耐糖能異常が改善されることを明らかにした。Elovl6欠損db/dbマウスでは、膵β細胞の増殖の亢進とアポトーシスの減少により膵β細胞量が著明に増加。インスリン分泌量が増大するために、血糖値が低下した。また、db/dbマウスに比べて、Elovl6欠損db/dbマウスの膵臓ランゲルハンス島では、オレイン酸(C18:1n-9)とトリグリセリドの蓄積が減少し、膵β細胞の減少を引き起こすとされている炎症と小胞体ストレスが抑制されたという。
さらに、野生型マウスとElovl6欠損マウスから単離した膵臓ランゲルハンス島に脂肪酸をふりかけた解析により、オレイン酸(C18:1n-9)が膵β細胞のインスリン含量やグルコースに応答したインスリン分泌能を減少させること、またパルミチン酸(C16:0)により引き起こされる膵β細胞の炎症、小胞体ストレス、アポトーシスがElovl6の欠損により抑制されることが判明。Elovl6の阻害は、インスリン分泌を抑制するオレイン酸の過剰蓄積を抑制することと、パルミチン酸による脂肪毒性を軽減することにより、肥満にともなう代償性インスリン分泌を維持し、糖尿病を予防・改善すると考えられるという。
今回の研究により、Elovl6の発現や活性の変化が肥満にともなう膵β細胞量の調節に重要であることを示された。今後、Elovl6の阻害や脂肪酸の質の管理による糖尿病の新しい予防法・治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース