皮膚細胞内の時計遺伝子の転写サイクル周期を測定
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は5月2日、皮膚細胞内の時計遺伝子の転写サイクル周期(末梢時計周期)を測定することで概日リズム睡眠-覚醒障害患者の末梢時計周期が有意に延長していることを同定したと発表した。この研究は、同精神保健研究所・精神生理研究部の肥田昌子室長、三島和夫部長ら研究グループによるもの。研究成果は「Translational Psychiatry」に4月25日付けで掲載されている。
画像はリリースより
概日リズム睡眠-覚醒障害は、睡眠時間帯が夜間から著しくずれ、社会生活が困難になる睡眠障害。6種類の亜型があり、今回の研究で対象にしたのは睡眠-覚醒相後退障害と非24時間睡眠-覚醒リズム障害だ。睡眠-覚醒相後退障害では、明け方にようやく寝ついて昼頃に目を覚まし、重症型では昼夜逆転に陥る。一般人口での有病率は0.4~1.7%、慢性不眠のある人の7~10%が該当すると推定されている。非24時間睡眠-覚醒リズム障害では、睡眠時間帯が毎日徐々に遅れる。一般人口での有病率は不明だが、全盲者の約20%、弱視者の約10%で認められ、全米では10万人ほどが罹患しているとされ、日本の人口に換算すると4万人強の患者がいると推定される。
研究グループはこれまでに、人の皮膚切片から培養した細胞(線維芽細胞)内で時計遺伝子の発現リズム(末梢時計リズム)を測定する方法を確立。末梢時計リズムの周期がクロノタイプ(朝型夜型)や休日の睡眠習慣(体質にあった睡眠時間帯)と相関することを報告している。
治療候補物質のスクリーニングシステム構築目指す
今回の研究では、東京医科大学、秋田大学などの協力を得て、概日リズム睡眠-覚醒障害患者67名(睡眠-覚醒相後退障害41名、非24時間睡眠-覚醒リズム障害26名)、標準的な睡眠パターンの健常者50名から採取した皮膚細胞を培養し、末梢時計周期を測定。その結果、非24時間睡眠-覚醒リズム障害群の末梢時計周期は健常者群に比較して有意に延長していることが確認できた。これは、皮膚細胞を用いて簡便に患者の周期異常を同定できることを意味しているという。
また、高照度光療法やメラトニン/メラトニン受容体作動薬などを用いて睡眠時間帯を正常化させる「時間療法」の効果を末梢時計周期によって予測できる可能性が示唆された。時間療法の奏功した非24時間睡眠-覚醒リズム障害患者では、奏功しなかった患者に比較して末梢時計周期が有意に短いこともわかったという。周期長を簡便に定量化できることは、単に臨床転帰の予測を可能にするだけではなく、今後、異常な長周期を有する難治例の病因研究を進める際に調査対象者を絞り込む重要な臨床的マーカーになるとしている。
一方の睡眠-覚醒相後退障害の患者では、末梢時計周期の異常は認められず、時間療法の効果判定にも有用ではなかったため、患者の大部分を占める孤発型の睡眠-覚醒相後退障害は、体内時計周期の異常以外の原因で発症している可能性も示唆された。
睡眠覚醒リズムの障害は多くの人々が悩まされる臨床上および公衆衛生学上の重要な課題となっている。今後、研究グループは、末梢時計周期の測定法を活用して難治例の病因研究、治療研究を進める予定で、概日リズム障害に関連するさまざまな精神・神経疾患の発症メカニズムの解明や診断ツールの開発にも取り組むという。また、概日リズム障害患者の細胞を用い、治療候補物質のスクリーニングシステムの構築を目指すとしており、これらの技法が実用化されれば、患者個人に合ったテーラーメード医療の提供に資することが期待されると述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース