第1号機は慶應義塾大学病院に導入、5月以降臨床研究を開始予定
慶應義塾大学は5月2日、全身用320列面検出器型立位・座位CTの開発に世界初で初めて成功したと発表した。このCTは、同大学医学部放射線科学教室の陣崎雅弘教授らが、医学部の名倉武雄特任准教授、理工学部機械工学科の荻原直道教授と共同し、東芝メディカルシステムズ株式会社をパートナーとして開発したもの。第1号機は慶應義塾大学病院に導入され、5月以降に臨床研究を開始するという。
画像はリリースより
1972年に英国で開発されたCTは、一回転で1スライスを数分かけて撮影していた。1987年にヘリカルCTが登場し、寝台を移動させながら、らせん状での連続撮影が可能になったことにより撮影時間が大幅に短縮。しかし、それでも全身を撮影するには数分以上かかり、静止状態を保てる臥位のみで撮影されてきた。
1998年に検出器を多列化したマルチスライスCTが登場し、一回転で数センチの範囲を撮影できるようになり、更なる高速撮影が可能に。2007年には面検出器型320列CTが登場し、一回転で160mmの範囲を撮影することができるようになり、最速モードでは全身を数秒で撮影することが可能になった。これにより陣崎教授は、立位でも静止状態を保てる時代に入ったと判断したという。
立位・座位での臓器や脊椎・関節の動態情報の収集も可能に
今回、従来のCTでは縦置きになっていたガントリ(架台)を横置きにし、上下動をさせることで、立位・座位での撮影が可能なCT装置を実現。特に、姿勢保持のための用具や座位撮影を可能にする座位撮影補助具を開発し、円滑な検査フローを組み立てたという。
このCTでは、320列の面検出器により、一回転を最速0.275秒のスキャン時間で最大160mmの幅を0.5mmスライス厚で撮影できる。これまでも、コーンビーム型のX線装置を用いて一回転数秒程度かけて体の一部を立位で撮影し、骨などの硬組織の構造を評価することはできたが、全身を撮影することはできず、また臓器や筋肉などの軟部組織を評価することも困難だった。今回の装置は全身撮影が可能で、軟部組織も評価することが可能だ。また、高速回転が可能な面検出器を用いているため、同一部位を連続撮影することで、立位・座位での臓器や脊椎・関節の動態情報を収集することも可能だという。
今回完成した立位・座位CTは、2017年3月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)により認証され、5月から臨床研究を開始予定。このCTの導入により、運動器疾患のような荷重がかかる病態の早期診断、ヘルニア・臓器脱のような腹圧がかかることにより明らかになる病態の診断、立位・座位での呼吸機能・循環動態の評価、形成再建術の術前評価、歩行機能など、多くの病態や機能の評価が可能になると期待が寄せられる。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース