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長野薬学部設置、長野県薬が賛成留保-県内初の薬学部、不透明も

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2017年05月08日 AM10:30


■新潟薬科大「最後まで可能性探る」-計画の行方、当事者の声が左右か

(日野寛明会長)が4月22日の理事会で、新潟薬科大学が2019年4月開設を目指して進めていた「長野薬学部」設置計画に「現時点では賛成しない」ことを決定した。長野県では、設置に必要な財政支援の条件として、県内医療団体の賛同を得ることを求めているため、長野県初の薬学部設置計画は不透明な状況になったが、同大学副学長で長野薬学部設置準備室長を務める若林広行氏は、「理解が得られないのは残念」としつつも、近隣県の高校生の高い進学ニーズや、昨年5月の長野県高等教育振興基本方針に「薬剤師養成の充実」が明記されたことなどを背景に、「決してあきらめていない」と強調。同大学が“タイムリミット”と見る今月末から6月まで、「限られた時間だが、長野県で薬学を学びたいという多くの高校生のためにも、長野県や上田市と協力しながら、設置のための方策を探っていきたい」と語った。

●長野県薬と上田薬の会費問題影響か
同大学では、薬学部設置に伴う建設費を最大約80億円と見積もり、大学側は上田市と長野県にそれぞれ25億円の支援を要請。2.6億円をかけて作成した北陸新幹線上田駅前に建設する地上5階建てのキャンパスの「実施設計書」の提出もすでに終えている。

長野県では、財政支援の検討に際して、県内の薬剤師会等の医療団体の賛同書を得ることを前提にしているが、長野県薬は薬学部設置計画に現時点で賛成しないことを理事会で決定。22日に日野会長が記者会見を行ったが、薬学部設置計画のどこに問題があるかなどは、明確に示されなかった。

長野県薬と上田薬剤師会の間では、会費徴収・納付義務をめぐって訴訟に発展し、現在も係争中。長野県薬の賛成留保には、こうしたことが影響していると見られる。

大学側は、「新潟と長野双方の経営を両立させるため、財政支援がなければあきらめざるを得ない」との考えだが、簡単にはあきらめられない事情がある。丸善雄松堂が行った進学ニーズ調査の結果だ。

昨年9~10月にかけて長野、群馬、山梨、石川、富山、埼玉の高校2年生6095人を対象に行った「進学意向調査」によると、「長野薬学部を受験したい」と考えている高校生は100人の定員に対し、9.7倍に及ぶことが判明。

仮に、設置計画が頓挫してしまえば、志望校を一から検討し直さなければならない学生が出てくるなど、路頭に迷わせてしまうことになるからだ。

●受験生や保護者など、問い合わせ多数
実際、長野県薬が設置反対を表明してから、同大学に対して、数十件の問い合わせや激励の声が寄せられているという。

地元の長野県内にある薬学部に入学したいという思いから「1年浪人してまで設置を待つ」決意をしていた高校3年の娘を持つ父親は、長野県薬の反対で計画がストップしたことを知り、「どんな事情があろうと、自分たちと同じ薬剤師を目指そうとする高校生の思いを切り捨てないでほしい」と懇願した。

家庭の事情で、実家のある上田市から東京都内の大学に通学している薬学部4年の女子学生は、長野県内で薬学部を志す高校生の負担軽減のためにも、「ぜひ設置してもらいたい」と語ったという。

長野県は昔から、「教育県」と言われてきた。まして、学生にとっては「人生がかかっている」ため、「それなら仕方ない」と誰もが納得できる長野県薬からの理由と十分な説明がないのであれば、後に大きな禍根を残すことになりかねない。

また、取材の過程で、長野県では多くの病院で薬剤師の病棟配置が行き届かない状況にあるため、複数の病院薬剤部長から「何とかあきらめずに地元に薬学部を設置し、薬剤師を充足させてもらいたい」との声が上がっていることも分かった。

地元の医療団体が連携し、開設に向けた準備が着々と進んでいる山陽小野田市立山口東京理科大学とは状況が大きく異なるが、若林氏は、県内医療団体の賛同書がとれない要因について、「長野県薬の懸念を払拭できないのであれば、われわれの努力不足」としながらも、「足りない部分があれば補い合い、互いに歩み寄って県民の方々のために将来の地域医療を担う薬剤師を一緒に養成していくのが医療者としての責務」と強調。

「それを簡単にあきらめていいものか」と語り、4月25日に長野県庁に赴き、大学として「最後まで手を尽くす」と表明したことを明かした。

●長野県と上田市、トップが動き出す
また、長野経済研究所が算出した、薬学部設置による地域への経済波及効果によれば、新校舎の建設で100億円、新学部の運営で毎年12.1億円の経済効果があるとの数字がはじき出されている。

上田市内では、上田商工会議所など経済6団体が「誘致推進委員会」を組織するなど、薬学部設置に向けて積極的な働きかけを行っている。

上田市として大学側を後押ししていたにもかかわらず、長野県薬の賛成留保の理由が明確になっていない状況を踏まえ、母袋創一市長が長野県への主体的な調整役を期待するコメントを出した。これを受けて、長野県の阿部守一知事が大型連休明けに県として長野県薬に対し、意向確認を行うよう指示するなど、新たな動きも出てきている。

若林氏は、「今月末から6月にかけてが最終決断のタイミングになる」としており、「幸い、高校生のニーズ、設置に伴う経済効果、就職先のニーズなど、設置を後押しする好材料が揃っており、計画を断念する理由が見当たらない。あと1カ月かけて、県、市と協力して理解が得られるよう、誠心誠意取り組み、打開策を見出したい」とした。

薬剤師を志す地元の高校生や保護者、県内の薬剤師不足に手を打ちたいと考えている人たちが、固唾を飲んで計画の行方を見守っている。

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