脳内の時計細胞のリズムを、数学とコンピュータで予測
お茶の水女子大学は4月28日、数学とコンピュータによるシミュレーションによって時差ボケの原因を解明、薬などを使わずに時差ボケを軽減する方法を提案し、ネズミを使った実験でその有用性を確認したと発表した。この研究は、同大基幹研究院の郡宏准教授、京都大学薬学研究科の山口賀章助教、岡村均教授ら研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に4月26日付けで掲載されている。
画像はリリースより
時差ボケの原因は体の中に持つ体内時計にある。体内時計は体中の細胞一つひとつが持っているが、それらを束ねるのが時計細胞とよばれる脳の中の神経細胞の集まりだ。時計細胞は各々が約24時間周期で遺伝子発現を繰り返しており、このリズムのタイミングを集団で合わせることによって全体で強いリズムを作る。この強いリズムが体中の細胞に影響を与えることで、体内時計は機能している。
過去の研究から、時差を与えると脳内の時計細胞のリズムが大きく乱れることが知られていたが、それは複雑で詳しい観察が難しいものだった。そこで研究グループは、リズム集団の振る舞いを数式で表し、その数式を解いたりコンピュータ・シミュレーションを行ったりすることで、時計細胞集団のリズムを予測したという。
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その結果、現地時間が遅れる(1日が長くなる)ような時差では、時計細胞のリズムは現地の昼夜のリズムよりも先行した状態になるが、集団のリズムがよくそろったままで、数日で現地のリズムに合わせることができることがわかった。
ところが、現地時間が早まる(1日が短くなる)ような時差では、時計細胞のリズムが昼夜のリズムより遅れるだけではなく、集団のリズムがバラバラになってしまい、全体としてのリズムがほぼ失われた状態に陥ることが判明。そして、この状態に一旦陥ると、時計細胞同士のリズムを再び合わせることが難しくなり、さらに、乱れた周りの時計細胞の影響で昼夜のリズムにもなかなかタイミングを合わせることができず、時差ボケからの回復が長引くことがわかったという。
これらの結果から研究グループは、時計細胞のリズムがバラバラになるのを防げれば、時差ボケから早く回復できると予想。そこで、8時間の時差を2日間にわたって4時間ずつ与えることをまずシミュレーションで試した結果、リズムはバラバラにならず、そして時差からの回復が数日早まることが確認できた。この結果を受け、ネズミを使って同様の実験を行ったところ、シミュレーションの予測の通り、時差ボケからの回復が数日早まることが確認されたという。
この手法は、時差ボケの症状の軽減だけでなく、シフト労働者の体の負担を軽減するようなスケジュール作りにも応用できる可能性がある、と研究グループは述べている。
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