神経細胞から放出されるHigh Mobility Group Box-1
岡山大学は4月26日、てんかんのメカニズムに神経細胞から放出されるタンパク質「High Mobility Group Box-1」(HMGB1)が関与することを明らかにしたと発表した。また、抗HMGB1抗体の投与は、痙攣発作に随伴する脳血管の透過性を抑制し、同時に生じる炎症応答を抑えることが判明したという。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科(医)の西堀正洋教授の研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」に同日付で掲載されている。
脳の興奮性異常によって発症するてんかんの原因は、脳炎、脳出血や脳外傷などが一次的な原因となる場合もあるが、原因不明のものも多く、臨床的な病型には異常興奮が生じる脳部位や臨床症状のパターンによってさまざまなものが存在する。これまでに開発されてきた薬物は、イオンチャンネルと呼ばれる神経細胞の興奮性を調節する機能分子に直接作用するものがほとんどだった。しかし、約20~30%の患者は、これらの薬物を用いても発作抑制が難しい難治性てんかんであり、イオンチャンネルを標的としない新しい機序の抗てんかん薬開発が求められている。
HMGB1は、細胞の核内にある染色体DNAと結合して存在するタンパク質。DNAの構造維持、遺伝子の転写調節やDNAの修復等で重要な役割を果たす一方、細胞・組織障害に応じて細胞外に放出されたHMGB1は、多様な炎症惹起作用を発揮すると考えられている。
抗HMGB1抗体で、てんかん原性獲得の過程も抑制できる可能性
研究グループが、ピロカルピンという薬物を用いてマウス脳の興奮性を生じさせ、痙攣発作を誘導したところ、脳血管の透過性が亢進し、同時に脳内炎症が認められた。このような反応を強く示した脳部位の神経細胞からは、HMGB1が細胞外へ放出されている像が観察されたことから、HMGB1は血液脳関門の破綻と炎症性サイトカイン産生の誘導に働くことが明らかになったとしている。
そこで、HMGB1活性を中和する抗HMGB1抗体を投与したところ、HMGB1の細胞外への放出反応、脳血管透過性亢進、脳内炎症のいずれもが抑制され、痙攣発作の回数も減少したという。特に、てんかん原性の獲得に重要な働きをすると考えられているサイトカイン「IL-1β」の発現を強く抑制することが注目されるという。
今回の研究により、抗HMGB1抗体の投与は、痙攣発作に随伴する脳血管の透過性を抑制し、同時に生じる炎症応答を抑えることがわかった。これにより、てんかん原性獲得の過程も抑制する可能性があり、新しいてんかんの治療薬として期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・岡山大学 プレスリリース