■パスカル薬局・横井氏らが調査
医薬分業率が高い都道府県ほど院外処方における1日当たりの先発医薬品費は減少していることが、横井正之氏(パスカル薬局)らの研究によって明らかになった。横井氏らは以前、医薬分業率が高い都道府県ほど院外処方における1日当たりの内服薬剤費が減少していることを報告したが、その要因は薬剤数の減少ではなく、先発品費の減少にあることを突き止めた。医薬分業の仕組みが様々な形で、医師が高価な新薬を処方することを抑制しているのではないかと推察している。
横井氏らの研究グループは、調剤医療費データベースとして厚生労働省が公開している調剤MEDIASデータを活用し、2011年から15年までの5年間における、院外処方箋1枚当たりの1日分の内服薬剤費を都道府県ごとに割り出した。さらに、1日内服薬剤費に占める先発品費と後発品費や、処方箋に記載された薬剤数も算出した。
その上で、医薬分業が進んでいない地域と進んでいる地域で、これらの数値がどのように異なるのかを比較した。その結果、医薬分業率が高い都道府県ほど、1日当たりの先発品費は減少していることが分かり、それが内服薬剤費減少の要因になっていた。調べた5年間の全てのデータで、この相関関係が認められたという。
具体的に15年のデータで上位と下位を比較すると、医薬分業率が低い下位10都道府県の1日平均内服薬剤費は343.1円、このうち先発品費は296.1円だったのに対し、上位10都道府県の内服薬剤費は311.7円、先発品費は263.7円と安価だった。
医薬分業の進展によって薬剤費が削減される要因は、先発品費の抑制にあることが明らかになった。その要因として横井氏は「医薬分業が進展すると処方箋が面に分散し、多くの薬剤師による処方監査の機会が増えるため、医師は価格が高い先発品の安易な処方をためらうのではないか」と指摘する。
さらに、「処方箋の分散によって、新薬上市後まもなくは在庫がない薬局が多くなる。患者からのクレームや薬の変更の照会が増えることのわずらわしさから医師は、新薬の処方を抑制するのではないか」などと推察している。
一方、今回の解析では、医薬分業の進展と薬剤数の削減に相関関係は認められなかった。不必要な薬や副作用を起こす薬を削減する効果が医薬分業に見込まれる中、そうならなかった理由について横井氏は「日本の薬剤師の監査権限が制限されていることが考えられる。療養担当規則には、医師は薬剤師の疑義照会には『適切に対応しなければならない』とあるだけで、具体的に薬剤師の意見に従う義務もなければ、処方の説明をする義務もない。このような日本の仕組みの弱点が反映されたのではないか」と語る。
その上で「医師と薬剤師がもう少し利権や体面から離れて、薬剤費削減を含めたより良い処方にするための学術的な情報交換や、それを公開する仕組みを作ることが必要ではないか」としている。