早期発見が極めて困難な中皮腫
日本医療研究開発機構(AMED)は4月26日、中皮腫の的確な診断に有用な新しい中皮腫がんマーカーを発見したことを発表した。この研究は、神奈川県立がんセンター臨床研究所の辻祥太郎主任研究員と今井浩三顧問らのグループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に3月31日付けで掲載されている。
画像はリリースより
悪性中皮腫(中皮腫)は、その多くが過去のアスベスト曝露により発生するがんで、5年生存率が7.8%と極めて難治性のがんであり、アスベストによる健康被害のひとつとして大きな社会問題となっている。日本では、過去のアスベスト使用量の増加と平行して発症件数が増加しており、現在、年間1,400人前後が中皮腫で亡くなっている。
中皮腫は化学療法や放射線療法に抵抗性を示すため、現状では、早期発見と早期手術が唯一有効な手段だが、早期発見を可能にする中皮腫がんマーカーはなく、中皮腫の早期発見は極めて困難だ。また、中皮腫は胸膜に転移した他のがんや良性の反応性中皮細胞の増殖と病理学的に類似することがあり、中皮腫自身もさまざまな組織型に分かれるため、鑑別診断が難しいこともある。
LSIメディエンスと中皮腫診断への適用、実用化を検討
研究グループは、中皮腫の細胞に結合するモノクローナル抗体を多数樹立し、その中から中皮腫に極めて特異性の高い抗体(SKM9-2)を同定。130症例の中皮腫の病理組織切片を使用して解析したところ、SKM9-2抗体は上皮型、肉腫型、線維形成型などさまざまな組織型の中皮腫に幅広く結合し、感度は92%と算出された。これは既存の中皮腫の診断マーカー(78~87%)を上回る値。また、肺がんをはじめとするさまざまな中皮腫以外のがんに対しては、SKM9-2抗体はほとんど結合せず、中皮腫に対する特異性は99%。さらに、正常な臓器の細胞にもほとんど結合しなかったという。これらの結果から、SKM9-2抗体は中皮腫に極めて特異性が高く、中皮腫の病理診断を精密に行う上で非常に有用な診断薬になりうることが明らかとなった。
さらに、中皮腫細胞からSKM9-2抗体が結合する分子を精製し解析したところ、SKM9-2抗体が結合している分子は、シアル化HEG1というタンパク質であることを発見。シアル化HEG1は、これまでに中皮腫のマーカーとしての報告はなく、機能もほとんどわかっていない。中皮腫細胞のシアル化HEG1の合成をsiRNAで阻害すると一部の中皮腫細胞の増殖が強く抑制されることがわかった。この結果から、一部の中皮腫では、シアル化HEG1に依存してがん細胞が増えていることがわかり、シアル化HEG1を標的とした中皮腫治療薬が開発できる可能性が考えられるという。
今回の研究成果により、SKM9-2を中皮腫の診断に用いることで、中皮腫の的確な診断が可能となり、中皮腫の早期治療や、アスベスト健康被害に関する迅速、適正な労災認定につながる可能性があることが明らかになった。また、中皮腫に対する高い特異性を利用した分子標的治療への応用も考えられ、治療困難な中皮腫に対する新たな治療法の開発に繋がる可能性があると研究グループは述べている。なお、同研究グループは株式会社LSIメディエンスと共同で中皮腫診断への適用、実用化の検討を進めている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース