細胞の核の強さが生み出される仕組みを解明
情報・システム研究機構国立遺伝学研究所は4月21日、細胞の核の「強さ」が産み出される仕組みを、物理の先端技術と生化学の研究手法を用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の島本勇太准教授と前島一博教授らのグループによるもの。研究成果は「Molecular Biology of the Cell」誌にハイライトとして掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの体を構成する細胞は、自ら力を生み出したり外から様々な力のストレスを受けたりしながら細胞の機能を果たしている。例えば、体のほとんどの細胞には、その体重を支えるため強い力がかかっており、心臓や骨格の筋肉を形成する細胞は強い力で繰り返し収縮している。また体のなかを動き回る細胞でも、組織の間を通過するときに大きな圧力を受ける。これらの力はDNAの収納場所である細胞の核にも伝わり、核をゆがめ、DNAの機能を阻害すると考えられている。このDNAの機能への影響は、細胞死や細胞のがん化などと関連するが、核の硬さや弾性などの性質を直接測ることは難しく、この力のストレスに応答する核のメカニズムはほとんどわかっていない。
細胞機能破綻が起こる仕組みの理解が進む可能性も
これまで、細胞核の硬さは核ラミナと呼ばれる殻の構造によって支えられているという考えが主流だったが、今回の研究では、細胞核の硬さとバネ弾性が核内のDNAによって生み出されていることを明らかにした。さらにDNAのバネ弾性がDNAのどのような構造によって生み出されているのか調べたところ、ヌクレオソーム構造をとったDNAが伸びたり、短く切れたりするとバネ弾性が弱くなることを発見。このことから、DNAが不規則に凝縮し、塊をつくることで核のバネになることを突き止めたという。この成果は、島本准教授の定量メカノバイオロジー研究室でこれまでに開発したガラス針を用いた力計測顕微鏡と、前島研究室で確立された細胞核とDNAの折り畳みの研究手法とを組み合わせることによって達成されたもの。両技術を融合することによって、核のDNAの状態を変化させ、その状態が核の硬さ・バネ弾性にどのように影響するかを定量的に計測することに成功した。
力によって細胞の核に生じるゆがみや構造の破壊は、DNAの情報の発現異常や、DNAへの損傷による細胞死やがん化など、さまざまな異常につながると考えられており、例えば細胞の核の殻の異常は、ある種の筋ジストロフィー症を引き起こすことが知られている。今回の研究で得られた成果によって、このような細胞機能の破綻が起こる仕組みの理解が進むことが期待される。さらに研究グループは、DNAがこれまで考えられてきた遺伝情報を収めるためのメモリデバイスの役割だけでなく、DNAが核のバネとして働くことで核の硬さを制御するという「DNAの新たな役割」を提唱するものとなるとしている。
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・国立遺伝学研究所 プレスリリース